※※第196話:Make Love(&Fixate).114
「大丈夫か?」
とたんに初日のことはほっぽって、薔はナナへと駆け寄った。
彼女の傷口は、もう消えてしまっている、けれどまだ誰も、豹変した薔と迫られる初日に目を奪われていたためそのことに気づいてはいなかった。
「俺がそばにいたのに…ごめんな?」
薔は本当に悲しげな様子で、ナナの首もとへと触れてくる。
「そんな、薔は何にも悪くないですよ…」
ドキドキと、切なく胸を高鳴らせながら小さく応えたナナは、彼のゆびの動きにひどく感じてしまった。
「痛かったろ?」
そんな彼女の声をかき消すように問いかけると、薔はナナを抱きしめ、
プツッ――…
着けられた自分の牙で自分のゆびさきを噛んでからその血を彼女の首もと、ちょうど初日が爪を立てたあたりに赤く引かせたのだった。
「血ぃ出てるじゃねぇか…」
「うわあ、女の子傷つけるとかほんと最低…」
「どうしていきなりこんな事態に…」
未だ困惑している周りの、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
まさかそう対処されるとは思ってもみなかった初日は、改めて自分の立場を思い出し冷や汗だらだらである。
首もとから彼の血を流すナナは、無性に泣きたくなった。
それと同時に、今度は自分が思い切り初日の頭を踏みつけてやりたくなった。
「とりあえず向こうで、傷の手当てを…」
と、ここで屡薇が助け船を出し、
「あんたも来なよ、殴られたんだから。」
初日も一緒にスタジオの外へと連れだした。
FeaRの写真集撮影に携わったことのあるカメラマンの越谷は、今回、プロモーションビデオ撮影現場の取材陣としてスタジオにやって来ていた。
そこで思わぬハプニングに遭遇した越谷だが、中心にいる男の子と女の子についてはよく知っている人物だった。
余計なお世話かもしれないとは思ったが、いてもたってもいられなくなり、周りにはトイレへ行ってくると断りを入れてからいったんスタジオを出ると、越谷はとある人物へとこっそり電話をかけた。
「あの、お忙しいところを申し訳ありません……ちょっとご相談したいことが、ありまして、」
控えめに申し出てみると、電話の向こうからは穏やかな笑い声が聞こえてくる。
「あぁ、如月さん、今ジムにいらっしゃるんですか。」
越谷は失笑してしまい、こそこそと返した。
……おそらくこの電話は、“あの人物”に事の成り行きを報告してもらいたいがための計らいだと思われます!
[ 483/537 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る