※※第189話:Make Love(&Make Love!).10.5
夜空が澄んで見えて、月も星もきれいなのは、愛するひとがそばにいてくれるからに他ならない。
いつだってこの手を、その手と離したくはない。
「ハリーさん、ここから見える月と富士山、とっても綺麗ですね。」
広縁の椅子に座って窓を見上げるように夜の景色を眺め、浴衣姿の葛篭はその秀美に感嘆した。
月も、月のかかる富士も、その存在は圧倒的だが慎ましやかに夜を彩っていた。
空はますます、濃い藍色となっている。
惚れ惚れと景色を眺めていた葛篭だが、彼からの返事がないため目の前の椅子に目をやった。
ハリーは何とも気持ちよさそうに、船を濃いでいた。
勢いよく船が前進しようものなら、テーブルの上に置かれた熱いお茶の入った湯飲みに鼻を突っ込んでしまうことは確実である。
(今日はいっぱいがんばったから、無理もないわよね…)
葛篭は笑いを堪えると、ふと、彼の鼻に触れてみたくなり、おもむろに右手の人差し指を伸ばした。
慎重にゆびさきは、ハリーの鼻先へと向かってゆく。
そろそろと、つん……と触れてみると、ハリーはとてもくすぐったそうに赤い顔をしかめた。
FUGAFUGAと動いている鼻や口は微笑ましいを通り越して笑いのツボを刺激して、葛篭先生は片手で口元を抑え大笑いを堪える。
そして今か今かと、彼がくしゃみをして思わず目覚めてしまうのを心待ちにしていたのだが、くしゃみをする手前にハリーはまた船を濃ぎ始めた。
「………………!」
面白い…!と思った葛篭は、今度はつんつんと二回鼻へと触れてみる。
ハリーは先ほどよりFUGAFUGAと顔を動かしてから、また船を濃ぎ始める。
となると葛篭先生は、次はつんつんつんと三回触れてみることにする。
起こしたい、というよりむしろ、構いたいのである。
三回触れるとハリーは大欠伸をしたため、葛篭は両手で腹を押さえて大笑いを堪えていた。
静かな夜に、船を濃ぐいずれ夫と今にも笑いだしてしまいそうないずれ妻の、和やかなひとときは流れゆく。
……登紀子叔母さんや、旅館の防音設備に感謝しよう。
他の部屋は今頃、エロティックの方面に於いてたいそう盛り上がっていることと思われますので。
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