※※第182話:Make Love(&Oral tradition).105
何よりも欲しいものを、手に入れる事に恐れを為すな。
――何ひとつ失わずに手に入れたものならば、いっそくれてやればいい――
「あぁぁ、あたし漫画もいけるかもぉぉ…」
マイルームにて、描写に没頭していたこけしちゃんはニコニコと筆を休めた。
とりあえず形から入ってみたこけしちゃんは、父のコレクションより勝手に拝借してきた黒いベレー帽を被っている。
パイプはないため諦めた。
「ゾーラ先生ぇはぁ、体つきよぉくわかるんだけどぉぉ、薔くぅんの場合はナナちゃぁんに評価をもらわないとぉぉ…」
下絵を真剣に眺めるこけしちゃんは、うんうぅんと頷いてから、
「やだぁぁ、あたしったらぁぁ…」
ポッと頬を赤くして、照れた。
“ついに手を染めちまったか…”
お気に入りのこけしちゃんのお膝のうえを陣取るゲイちゃんは、あたたかくてやわからな感触にうとうとしていたのだった。
――――――――…
「やっぱ真依さんの手料理は最高だね。」
と、それはそれは嬉しそうに屡薇は、リビングにて彼女お手製のお弁当を頬張っていた。
唐揚げや卵焼きといった定番から、野菜も大事ということでカラフルな野菜炒めや肉じゃがまで詰まっている。
「いえ……女のあたしが作ったものなんて、とても……」
小さな声で呟いた真依はキッチンにて、インスタントのコーヒーをふたりぶん煎れた。
よって、この自虐的な呟きは彼には聞こえておりません。
「俺腹減ってたからさ、ほんと助かったよ。」
笑いながらなかなか男らしくお弁当にがっついていた屡薇の目の前へと、
ドンッ――――…
いきなり、大きな音を立ててマグカップが置かれました。
ブラックコーヒーが怯えたように跳ねる。
ゴクリと、屡薇は息というよりおかずを呑み込み、
「昨日はさぞかし楽しかったんでしょうね?」
彼のほうを見ようともせず、真依は一口コーヒーを飲んだ。
「ええ…?うん、まあ……」
屡薇は恐る恐る、あと少しで完食というお弁当をテーブルの上へと置く。
その返事に真依の雰囲気はさらに険しくなる。
「おかげで新曲も、完成しそうだし…」
ただ事実を、屡薇は伝えただけなのだが、
「とぼけないで!」
先ほどと同様に、手にしていたマグカップをテーブルへと叩きつけ、真依は声を張り上げたのだった。
「昨日はこの部屋に、男の子連れ込んでたんでしょ!?」
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