※※第174話:Shout of Love.1








 「離したくねぇよ!俺にはおまえがすべてなんだよ!おまえに触れらんねぇならこんな指いらねぇし、触れていねぇと今にも狂いそうなんだ!」

 ナナに向かって、ただただ真っ直ぐに、想いはぶつけられた。
 心臓が切なく痛くなる、瞬時に全てを持っていかれた。


 「寝ても覚めてもかわいい顔して頭ん中埋め尽くして、知れば知るほどにこんなにも愛おしくさせやがって!好きで好きでどうしようもねぇから、助けに来て何が悪りぃんだよ!」
 薔がこんな風に、我を忘れたみたいに必死で声を張り上げるのは、おそらく初めてのことであった。






 「俺はほんとは、折れちまいそうなおまえの躰どこもかしこも縛りつけて、俺の世界に閉じ込めて何処にも行けなくしてやりてぇと思ってんだ!」
 息も忘れるくらいに、揺るぎなき彼女への愛を叫んだ後、


 「…――――っ、」

 とても悲しげに、瞳を伏せ、消え入りそうな声で薔は告げたのだった。

 「……おまえは…俺の傷、いつも癒してくれんのに…、おまえにとって俺は…、毒にしかなれねえ……」




 睫毛が作った影の中で煌めいた、雨ではないその雫は、一筋となって頬を伝い落ちた。












 息が止まってもおかしくはなかった。
 だけど止まらないことを心底幸せに思えた瞬間だった。

 例え彼の愛が、彼女を狂おしく愛しすぎるがあまりの猛毒を孕んでいたとしても、

 ナナにとってはそれは至上の喜びでしかなかった――――――…






 「薔……」
 ゆっくりと、ナナは手を伸ばした。
 どうしても、彼に触れたくなったのだ。

 伝えたい想いは、やまほど胸を締め付けていた。






 伸ばした手は、あと少しで彼へと届きそうだった。


 まさにそのとき、

 バ――――――――ン…!

 地下室へと、鳴り響いた銃声。



 ひとつの銃弾はふたりの体を、ほぼ同時に貫いた。















 「な、何…?今の音…、まさか、銃声…?」
 降りしきる雨の音に紛れ、響いたその音にあかりはひどくうろたえていた。


 そして、

 「花子…ちゃん…?」

 あかりは花子の異様さに、思わず息を呑んだ。




 大人しく、タオルで体を拭かれていた花子は急に、嘆きのような声で鳴き始め、

 心許なく部屋の中を行ったり来たりしながら、瞳にいっぱいの涙を溜めていたのである。
 その姿は、慟哭を思わせるほどだった。

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