※※第173話:Stray(&Masturbation).1
「…なんつうカッコで寝てんだよ、」
稽古を終え帰宅した薔は、ソファの前でひとまず両目を右手で覆った。
まだ、外は雨が降りだしてはいない。
言うまでもなく、ナナは一人エッチをした後すぐに、眠りに落ちてしまいましたので。
それなりに淫らな格好で寝ております。
しかも、彼のシャツを抱きしめて。
「あー…、今すぐ襲っちまいてぇな…」
どこかくるしげに呟き、背もたれに片手を突きかがんだ薔は、彼女の着衣をそっと整えると、
「ナナ……」
愛おしそうな視線を落とし、その頬へとゆびさきで触れようとした。
ところが、触れる手前でその手を引っ込めると、
「そうだ…、こいつはおまえが持ってろ……」
鞄につけていた、花子のキーホルダーを外した。
それはお揃いであるが、薔のほうには“ある力”を宿していた。
外したキーホルダーを、ナナの傍らにそうっと置くと、
「こいつは…何があっても離すなよ?」
そう言い残してからザザえもんのバスタオルを掛け、薔は静かに部屋を出ていったのでした。
――――――――…
「お兄ちゃん、今日は遅いなぁ。」
夕食の支度を終えたあかりは、時計を見やってからエプロンを外した。
「こんな遅くまで仕事してくるほど仕事あるとは思えないし、どこほっつき歩いてんだろ?」
と、実の兄に対してかなりさんざんなことを述べたあかりだったが、
「あ、そっか、今日は“あっちの仕事”か。最近教師になったから危うく忘れるとこだった。」
と、納得したようだ。
そしてふと、耳を疑いたくなるような言葉を漏らしたのである。
「あれってさぁ、ただの犯罪じゃんね。ヴァンパイアを狩るとか言っておきながら、ただの“人身売買”だし。あたしは絶対にこんな一族絶えさしてやるもん…」
しかしあかりはここで、とても重要なことを思い出した。
「あれ?でもお兄ちゃんの次のターゲットって、三咲先輩だったような……」
あかりは噂により聞いていた、ナナと薔は別れたかもしれないということを。
兄はもしかしたら、そこにつけ込んだのかもしれない。
「あのクソ兄貴!只じゃ置かねえ!」
怒り狂ったあかりは、仮に兄が帰ってきたとしても簡単には夕食を食べられないように鍋ごと冷凍保存してしまうと(極悪人から良い子までみんなは真似しちゃダメだよ?)、
「暮中先輩の家に行くのは、ちょっと…こわいからな!桜葉先輩の家に行こう!」
猛スピードで玄関を飛び出していきました。
……君はこけしちゃんの自宅の住所をいつ知ったんだ?
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