※※第173話:Stray(&Masturbation).1













 …――――愛すれば愛するほどに、狂いそう、

 堕ちてゆく。


 瞳を開けても瞳を閉じても、

 映るのは、

     あなた
  ただ、    だけ。
     おまえ















 「………………!」

 ぼとっ…

 朝からとある高校の皆さんは、通学途中の歩道にて思わず鞄を落っことした。
 そして、戦慄すら覚えぶるぶると震えている。

 「しょ、薔さまと三咲さんが、一緒に登校していない…!」













 とぼとぼ…

 ナナはうつむき加減に、心許なく歩いておりました。
 頭上には澄んだ青空が広がっているけれど、見上げる気にも到底なれない。


 (あのひとがあんなことをおっしゃるなんて…、絶対におかしいよ……)

 考えているのは、ただ、薔のことばかりだ。
 今朝から、彼の態度はひどく素っ気なかった。
 授業を終えたら今日からナナは、ナナ宅のほうへ帰らなければならない。
 彼女のものは全て、日曜日までに実家まで送り届けてくれるそうだが……




 竜紀が関係していることは間違いないと、ナナは確信していた。
 なぜなら、薔が彼女と離れるときにはいつも、あの男の影が忍び寄ってきていたからだ。




 しかし今回は、今までとはどこか違うようだった。
 薔はとても思い詰めている。

 “これから、何かが起こるに違いない――――――…”

 おまけにそれは、そばにいればナナにまで危険が及ぶような、何かであるのだろう。








 じわぁっ…

 歩いているのかもよくわからずに歩きながら、ナナの目には涙が滲んでいた。

 どれほどの危険であっても、どうってことはない、そばにいられないことより辛いことはない。
 それなのに……



 ゴシ…

 懸命に、その涙を制服の袖で拭っていると、

 「ナナちゃぁん、おはようぅ…」

 おっとりとした切なげな声が、背後より掛けられたのだった。

 「大丈夫ぅぅ?」








 「こっ、こけしちゃんっ…、おはっ…よぉう…っ、」
 ナナは朝の挨拶を返そうとするが、同時に嗚咽を堪えているためうまく言葉が出てこない。

 「ナナちゃぁん、無理しなくていいよぉぉ?」
 「う…っ、うっ、ごげじぢゃ…っ、」
 ほとんどに濁点をつけられたこけしちゃんは、やさしくナナの背中を撫でる。





 (なんか…、こういうときは“あたしたちにもチャンスが!”ってなりそうなものを、うちの場合はそうもいかない……)

 周りもしんみり。







 「ナナちゃぁんがあたしに話したいことはぁ、何でも話していいからねぇぇ?」
 「ごげじぢゃああ…っ!」

 乙女たちは寄り添い、あと僅かな学校までの道のりを歩いていきました。

[ 140/537 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る