※※第169話:Make Love(&Sex aid).11







 およそ五時間後の一時間前に、屡薇はマンションを後にした。

 月は昨夜よりもまた少し欠け、夜空からネオンが輝く街を見下ろしている。



 真依のアパートの住所は、最近になって知った。
 屡薇が以前住んでいたボロアパートと、けっこう、近い場所にある。
 そのことを、気まずそうに真っ赤な顔で明かされたときにも、今日と同じような衝動に駆られたのだ。





 「そういや、話すっつってもどこで話そう?」
 アパートで話をすべきか、もっとムードのある場所へ誘い出したほうがいいのか、あれこれ考えながら屡薇は駅までの道を歩いていた。







 「やあ、」

 突然、目の前から、男の声が聞こえてきた。
 屡薇は立ち止まる。
 その声は、昨夜聞いたばかりの声だったのだ。




 いつの間に現れたのだろうか、モスグリーンのコートを着た男はそこに立っていた。

 「あんた、だれ?」
 屡薇は少しの夜風に、金色の髪をなびかせる。




 「どうしても、お礼を言っておきたかったんだけど、」
 男は、ゆっくりと近づいてきたかと思ったら、


 「君はあの子に近づきすぎたようだ…」


 一瞬にして、見えなくなるほど近くに立っていた。







 走り抜けたその感覚の、正体もまだわからないうちに、

 「生きて帰れたら離れる前に伝えてよ、“愛してる”って…」

 屡薇の躰に突き刺されたナイフは、引き抜かれてゆく。






 男は闇へと姿を消し、

 ドサッ――――…

 腹部を赤く染めた屡薇はアスファルトの上へと倒れ込んだ。


 重く閉ざされる前の瞳はただ、降り注ぐ淡い月の光を映していた。














  …――That seemed to reflect a tear in a moon.

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