※※第144話:Make Love(&Agreeable).79
「ナナちゃぁん?」
親友の様子がおかしいということは、すぐにわかった。
「ナナちゃぁん、何かあったのぉぉ?薔くぅんはぁぁ?」
なだめるように、こけしちゃんは尋ねる。
すると、
『うえぇぇん…』
電話の向こうで、ナナは今にも死にそうな声を振り絞った。
『薔がっ…、刺されちゃったんだよぉっ……』
「桜葉、どうしたんだい?」
何かを言い聞かせるように電話を切ったこけしちゃんへと、醐留権が少し心配そうに尋ねてきた。
「こけしさん、顔色悪いよ?」
「何かあったの?」
じつはこちら醐留権邸で、ちょうど羚亜と愛羅もおりまして、
「あのねぇぇ、」
冷や汗混じりに、青ざめたこけしちゃんは明かした。
「薔くぅんがぁ、刺されたってぇぇ…」
――――――――…
夕月は男のフードやサングラスやマスクを、剥ぎ取った。
「俺は今までに、約束に遅れたことはねぇんだがな、」
そして剥ぎ取ったフードを掴みながら、携帯電話を取り出すと、
「おっ、おれは、悪くないっ…」
「は?」
おそらく20代後半あたりであろう男は、ひどく怯えながら言ったのだ。
「おれはっ、女を殺せって、言われたのにっ…、男のほうは、まだ殺るなって、言われたのにっ…、あいつが、女を庇うからっ…」
と。
「…人を殺そうとしたわりには、随分と中途半端な悪意だな、」
ぐいっ
「ひっ…!」
夕月は力任せに、男の胸ぐらを掴み、
「その程度の悪意なら、抱かねぇほうがまだマシだぜ?」
とんでもない威圧感で、微笑んだ。
男は畏怖し、微動だに出来なくなる。
「このマンションに、男女で住んでる奴は実はそう多くはねぇんだ、」
そしてふと、鋭く男を見据え、夕月は問い詰めたのだった。
「言え。お前が狙ったのはどの部屋だ?」
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