※※第125話:Make Love(&Sex aid).4







 日付が変わってからも屡薇は、照明が半ば落とされた狭いスタジオで、一人煙草をふかしながら作曲に励んでいた。

 「なんか、しっくりこねぇなぁ…」
 ふぅと一息つき、弦を弾くゆびを休める。





 そのとき、


 「随分と、物悲しい曲調じゃないか、」


 それははっきりとした低音の、男性の声が響いたのだ。




 少しビクッとなった屡薇は、ゆっくりと声のしたほうを向き、目を見開いた。

 「親父、なんで…」







 「ルビ、」

 親父と呼ばれた、屡薇とそう年は違わないだろうと見えるその人物は、穏やかに笑って言いました。

 「私はお前の、父親ではない。ちゃんとした名前で呼びなさい。」





 ギリ…

 くちびるを噛みしめた屡薇の瞳は、瞬く間にオッドアイとなる。

 それでも彼は笑って、返したのだった。

 「3月の予定が、えらく早まったんたな、…ルイ、」









 「予定通りに来ると、お前が何をしでかすかわかったもんじゃないからな、」
 コツコツと、床に足音を響かせながら、ルイは屡薇へ近づくと、

 「“あの女”はどうした?結婚すると言っていただろ?」

 威圧感で見据え、とても意外な質問を投げ掛けてきた。






 「――――――――…」

 一瞬にして瞳は色を失い、ただ静かな笑みを浮かべ、屡薇は答えたのでした。

 「あのひとは、死んだよ…」












 「そうか、お前はとことん、女を幸せにできない生き物のようだな。」
 表情ひとつ変えず、口にしたルイは、

 「それより、ルビ、」

 耳もとで、問いかけたのだ。


 「この匂いは、どこで付けた?」









 「何の、ことだよ、」
 引きつった笑いで、屡薇は冷や汗混じりに目を逸らす。

 「とぼけても無駄だ、私にはよくわかる…」

 そう続けたルイは、口元に光る牙を覗かせていた。


 「この血の匂いは、…F・B・Dだ。」









 様々な感情が入り交じり、震え出した全身は動揺を隠しきることなどできるはずもなく。

 「お前はいい子だ、居場所を教えなさい。」
 都合のよすぎる呪文は、心に凝りじわじわと蝕む。



 「この血はまだ、誰のものにもなっていないんだろ?」








 …――――――――そう、


 ほんとはいつだって、

 自分で引ける引き金など、

 どこにもありはしなかった。














 V became full!

 『A tale is unfolded in W after this.』

[ 521/538 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る