※※第113話:Make Love(+Separate).55







 それはよく晴れた、土曜日のこと。


 「いやぁ、ナナちゃんが今月で辞めちゃうなんて、さみしくなるわぁ。」
 バイト先の店長さんは、ホロリとして零す。


 「すみません…、ほんとうに店長さんには、お世話になって…」
 「機会があったらいつでも、声掛けてね!」
 「はい!」
 まだ半分以上日数は残ってるんだけど、まるで退職時のやりとりでございます。




 ナナは残り少ないバイトを、めいっぱいがんばろうと意気込みまして、

 (それにしても、わたし今月で辞めたいなぁって思ってたら、今月で辞めることにしてくださってあったよ!すごい!)

 なんだかめっちゃ、感心していた。




 (少しでも多く、あのひとと、一緒にいたいもんね…)

 とか頬を赤らめながら、時計を見る。

 (あと30分したら、会えるよ――――――――っ!)

 そのことでこころから元気になれて、ナナはルンルンと商品棚の清掃を開始したのであった。















 そろそろ、ナナを迎えに出発しようとしていた矢先、

 ピンポーン

 薔のもとには、来客があった。



 「…誰だ?」
 怪訝に思った、薔だったが、

 「ヴゥ゛――――――…!」

 花子が威嚇を始めたことから、招かれざる客だということを悟る。




 「めんどくせぇな、」

 時間もあまりないため、特にどうということもなく、薔は玄関へと向かったのでした。












 ガチャ――――――…

 ドアを開けると、


 「なんだ、彦一か、」

 が、そこに立っていたのです。



 しかし、薔はすぐに、はっとした。


 彦一は、“ナナが巻いていったはずのマフラー”を手にしていたのだ。



 「彦一、てめえ、」

 これでもかと言うほど険しく、薔が凄むと。


 冷や汗混じりに彦一は、それでも笑って、こう言った。


 「お、おれに危害を加えずに、大人しく付いてきたら彼女は無傷で返すよ。」





















 「おかしい…」

 白い息を吐きながら、ナナはコンビニの外をウロウロしていた。

 「薔がぜんぜん、お迎えにきてくださらないよ…」







 「マフラーも、いつの間にかどこかにいっちゃったし…」

 そして彼女は、ちょっと俯くと、

 「まさか、来る途中に、何かあったんじゃあっ…」

 今にも泣きだしそうになって、来たときの道を走りだした。

 「薔っ…」









 グイ――――…

 走りだしてすぐに、その腕は掴まれ反対方向へと歩き出す。


 まったく知らない手の感触に、振り向いたナナは憤慨して叫んだ。

 「ちょっと!何するんですか!?」




 ふわっ…

 目立つ金髪が、風になびいて、男は振り向きもせず、返した。

 「大人しくついて来なよ。そうすればあんたの“元彼”は、無傷で家に帰れるからさぁ。」










 「……なんで…?」

 ナナは泣くのを懸命に堪え、大人しく後をついてゆく。


 すると今度は、少しのあいだ振り向いて、

 「あぁ、そうだ、俺の名前も教えとかねぇと、」

 笑った男は、光が反射するサングラスを外し、明かしたのだった。


 「屡薇だよ、これから俺とあんたは、ペアを組むことになる。」















  …――Sweethearts are separate.

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