愛するしか出来ない。









 『I would like to share sadness with you.』

 ゆびさき繋げて、悲しみを流し込もうか。
 くちびる合わせて、甘く溶ける原液で。













 「…ネクタイって、これ、どうやって結ぶの?」
 「俺もよくわかんねぇよ、」

 漣は、咲の制服のネクタイが上手く結べず、四苦八苦している。


 なんと、咲が17歳だと知った漣は、彼を学校へ通わせることにしたのだ。



 「別にこんなん、なくてもいーだろ。」
 「ダメだよ!今日が初日なんだから!それに僕、咲がネクタイした姿をどうしても見たいの!」
 しかし、これではらちがあかないため、

 「柏葉を呼んでくるね!」

 漣はいそいそと、部屋を出ていった。



 「…忙しいやつだな、」
 咲は呆れたように、ドアを眺めぽつりと呟いた。








 「仕方ありませんわね、漣さまのネクタイは、いつもわたくしが結んでおりましたので。」
 眼鏡をくいっとさせた柏葉が、漣に連れられやって来た。
 「柏葉、よろしくね!僕は車の手配してくるから!」
 柏葉に笑いかけ、漣はまたいそいそと走っていきました。


 「一国の王太子さまが、そのようなあわてんぼうさんで、どうなさるのですか?」
 漣が走り去ったほうへと、柏葉はこんなことを呟き掛けた。





 「こちらは、途中まで漣さまが結ばれたのですか?」
 「あぁ、」
 とか会話をしながら、柏葉はネクタイをいったん解いていた。

 「まったく、どのようになさりましたら、ここまで複雑に結べるのですかね?」
 ブツブツ言いながらも、丁寧にネクタイを解き、

 きゅっ

 迅速かつ真っ直ぐに、柏葉は咲のネクタイを結んだのでした。




 「…あっという間だったな、」
 「これしきのこと、当然であります。」
 感心だかする咲のまえ、柏葉は眼鏡をくいくいさせている。


 その手の動きを休め、

 ジッ

 柏葉は、咲を見つめた。


 「なんだよ、」
 咲は特に動揺もしていないのだが、

 「咲さまは本当に、女のわたくしでも妬いてしまうほど、お綺麗でいらっしゃいますわね。」

 そう言い放ち、柏葉はフイッと部屋を出ていった。



 「なんだ、そういうことか。」
 咲はなんとなく、納得していた。




 「あれ?柏葉は?」
 ほどなくして、漣が部屋へと戻ってきました。

 「さっき出てった、」
 「なんで?」
 キョトンとする、漣。

 「用があったんじゃねーか?」
 「そうなのかな?」
 とかやりとりを交わしておりますが、

 「うわぁ!咲っ!すんごくかっこいいよ!」

 突然、漣の瞳はパアァと輝き出した。


 「結んだのが、柏葉だからな、」
 「違うよ、咲がかっこいいの!」
 咲が落ち着き払っている前、漣ははしゃいでいる。




 「それに、いい匂い…」
 「抱きつくな、ネクタイ曲がる、」
 漣はいつしか、咲へと抱きついていた。




 (言うと怒りそうで言えないんだけど、咲が僕より4つも年下って知ったら…、なんかもう、僕、咲が、可愛くて可愛くて仕方ないんだよね…)
 華奢なからだに抱きつき、漣は止め処ない想いを浮かべる。





 「…時間、大丈夫なのか?」
 ちょっと呆れたような咲の声で、我に返った、漣。

 「ごっ、ごめん!遅れちゃうよね!」
 慌てて、パッと離れると、

 クスッ

 と笑った咲は、

 ちゅっ

 漣に短くやさしく、キスを落とした。

 「行ってくる。」






 バタン―――――――…

 咲が出ていったあと、

 「っっ―――――――…っ、」

 漣は頬を赤く染めて、うずくまった。

 「ダメだよ…、好きで、好きで…、やっぱり行かないでって言っちゃいそうだったよ……」
 口元を片手で押さえ、しばらくの間彼はそのままでいた。

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