Affair.1『女王誕生?』








 (はっ!先輩はきっと、あたしの口封じをしに来たに違いない!)
 蕪木のあとをついて歩きながら、夏はふとそう予感がして青ざめることとなった。

 (まずはなっちゃん作戦であたしのご機嫌を取っているんだ!)




 (帰ろ……)
 そろりそろりと、教室に戻ろうとした夏は、

 「なっちゃん、どこいくの?」

 がしっ!

 「ひぃぃぃいいい…!」

 襟首を掴まれた。


 「もうちょっとで着くから、ねっ?」
 「やだぁぁあ!離せ!チャラ男嫌いぃぃい!」
 「なっちゃん、俺先輩だよ?」
 「知るか!ボケェェェエエエ!」
 むんずと襟首を掴まれたまま歩き、ふたりはしばし揉めていたのだが、

 「そう、それ!」
 「はい?」

 屋上へと続くひとけのない階段の踊り場で、夏はいきなり手を離された。


 そして夏を子犬のように潤んだ瞳で見つめ、蕪木先輩は言ったのである。

 「なっちゃんて、ドSでしょ!?」







 「いえ、あたくしはドNです」
 テンションがガタ落ちした夏は、めんどくさそうにさらりと返した。

 「ドエヌって何?」
 「ドのつくノーマルだわ!」

 蕪木先輩はキョトン。

 「んー、よくわからないけど、なっちゃんはドSだと思うよ?」
 次に、明るく笑いながら、蕪木は夏の両手を取った。

 「ところでなぜ、あたしの名前を?」
 「奈美ちゃん先生から聞いた!」
 「ああ、そう」

 そのまま両手を、ブンブンされる。


 (ああ〜、悔しいけど、やっぱり先輩、すごくきれいな顔してるなぁ……)
 不本意ながらと言うべきか、夏の胸は今朝のようにときめき始めた。
 夏と手を取りあいながら、蕪木先輩はにこにこしている。


 「でね、なっちゃん!」
 そのにこにこのまま、先輩は言いました。

 「俺、誰にも言ってないけど、じつはドMなんだ!」

 と。

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