Affair.1『女王誕生?』
…――――跪いて足を舐めるのは、どっち?
不思議と甘い気分が掻き立てられます、春です。
儚いと知りながらも桜の花の色が前面に押し出される、春でございます。
この春から花の女子高生となった、日向 夏(ひゅうが なつ)は、ドキドキととある人物の登校を待ちわびていた。
ちなみに、彼女は日向夏という名字とセットのような名前であるがために、今までに柑橘系とは切っても切れないような人生を送ってきた。
両親を多少恨んだりもした、せめてキラキラネームにしてほしかった。
中学時代の彼女のあだ名は、クラスの目立ちたがりの男子の一言が発端となった、“かんきっちゃん”である。
勘吉という名前でもないのに理不尽な話だとは思ったが、嫌だと言い出せずに結局、何だかちょっと暗い中学生活を送ってしまった。
そして、同じ高校に進学した中学時代の同級生の影響で、高校でのあだ名もかんきっちゃんで決定である。
夏はなるべくかんきっちゃんとは呼ばれないように、周りからはあまり気づかれないように、目立たないことをモットーに日々の生活を送っている。
そんな夏は、“なっちゃん”というあだ名に憧れを抱いていた。
一度でいいからかっこいい先輩とかに、「なっちゃん」と甘い声で呼ばれてみたい。
しかし、このままいけば確実にその場合、「かんきっちゃん」となってしまう。
妄想のなかのかっこいい先輩に申し訳がない。
と、ヒロインの身の上話をしていたところへ、
(かっ、蕪木(かぶらぎ)先輩、きたぁぁあ…!)
夏のここにきての初恋のひと、蕪木先輩が登校してきた。
2年の男子生徒、蕪木先輩は、同じクラスで大の仲良しの藤堂(とうどう)と登校してきた。
蕪木先輩は、一瞬にして夏のハートを射止めた、超がつくほどの美形である。
が、入学当初は後輩たちに騒がれていた彼だが、今では周りはあたたかく見守るようになっていた。
それもそのはず。
「あれ?お前なんで今日、傘持ってきてんの?しかも二本も」
下駄箱にて、同じクラスの男子生徒がふたりへと声をかけた。
無論、降水確率0パーセントの今日、長傘を二本持ってきているのは蕪木先輩で、
「聞かないでやってくれ、こいつ昨日生まれて初めて天気予報を観たらしいんだが」
隣にいた藤堂先輩が、フォローを入れてくれた。
「晴れが100%と勘違いしたみてぇで、自分の傘と奈美(なみ)ちゃん先生の分の傘も持ってきたんだと」
「へぇえ……」
尋ねてしまった男子生徒は、遠い目をしている。
蕪木先輩はただ、笑っている。
…――そう、夏の初恋相手、蕪木 奏多(そうた)は、
素晴らしいほどのアホの申し子だった。
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