淫らな悪戯を召し上がれ









 〜ハロウィンぽくショートショート劇場・お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ?〜











 「薔っ、今日はトリックオアトリートなんですよ!」
 ナナはこけしちゃんより渡された魔女の帽子を被り魔法のステッキを手にすると、彼へと元気よく声を掛けた。
 花子と豆はその元気のよさに、しばしキョトンである。

 「それはどういう意味だ?」
 もちろんわかっているのだが、言わせたいがために薔はわざと聞き返してみた。
 彼女の姿が可愛らしくて、彼はムラッときちゃっております。


 「えっと……お菓子をくれないとイタズラしちゃいますよ、って意味です!」
 ナナはこけしちゃんから教えてもらった通りに、答えることができた。

 すると、

 「ふーん…」

 ソファに座って花子と豆を構ってあげながら、不敵な笑みを浮かべる薔はこう返してきたのだ。

 「なら、やんねぇからイタズラしてみろよ。」








 「えええ!?」
 びっくり仰天のナナはヴァンパイアなのに魔女の帽子を跳ねさせ、何の魔法もかけられない魔法のステッキを落っことした。

 「そこはお菓子をくださるのではないんですか!?」
 「俺はそれよりおまえにイタズラされてぇんだよ。」
 「ぇぇぇぇえええ!?」
 食い下がるもののさらりと返され、ナナは仰け反る。











 「今、隣の嫁さんの叫びが聞こえなかった?」
 「ハロウィンだから盛り上がってるんじゃないかな?」
 彼女の提案でヴァンパイアの仮装をした屡薇と、パンプキンの着ぐるみを着た真依はリビングでお菓子を食べていた。

 「真依さん、今5月の下旬だよ?てことでイタズラしてもいい?」
 「お菓子あげたんだからダメ!」
 屡薇のイタズラ計画は、一筋縄ではいかないのかもしれない。






 「ハロウィンて素晴らしいわね、お菓子がたくさん食べられて。」
 「ハニー、今日は5月の下旬だけどナナの誕生日だから電話でもしてみる!?」
 「野暮はせずにお菓子食べなさい?雅之。」
 「そっ、それもそうだね!」
 特に仮装はしておらず、BGMに演歌をかけながらナナ母とナナ父はハロウィン限定のお菓子ばかりを選りすぐって食べていた、食卓にて。













 「わたし、イタズラは何も思いつきませんので……お手本を見せてください……」
 彼に仕掛けるいいイタズラが何も思い浮かばなかったナナは、上目遣いに申し出た。

 「仕方ねぇな…」
 どこか妖しげに笑った薔は彼女が落とした魔法のステッキを拾い上げると、立ち上がった。

 「魔法かけてやるから、目ぇ閉じてろよ。」
 そして彼女の目の前で、ステッキを片手に促してきた。

 「えええっ!?やっぱり薔は、魔法とか使えるんですか!?」
 彼なら使えてもおかしくはないと、信じ込んだナナは素直に目を閉じる。

 呪文とかは唱えられるのか、どんな魔法をかけてもらえるのかドキドキで待機をしていたナナは、

 ちゅっ…

 キスをされちゃった。






 魔法より遥かに手強いものがきたために、瞬時に全て持っていかれてしまったナナは顔を火照らせ目を開き、

 「えっちな気分になったろ?」

 薔は悪戯っぽく微笑んで急接近をすると、耳もとで囁いて確かめた。

 「もっとするか?イタズラ…」










 彼だけの、解けない魔法にかけられたナナは小さく頷く。

 お菓子よりも甘く病みつきになる、悪戯を召しませ。
















  …――Happy birthday!

 and Happy Halloween for you!

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