邪魔な焦がれ人








「あんたさあ、邪魔なんだけど」
 雨が降り続く窓の外を眺めながら、あの男が憎らしげに言った。
 どっちが……と思った私は、何も返さずにテレビを観ていた。今日は土曜日、彼は休日を返上して仕事に行っている。
 雨のせいだけではなく、鬱陶しい一日だった。私は私のことだけをしたくても、彼に頼まれて仕方なく、あの男のぶんの昼食も用意したりした。もちろん、礼は一言も言われない、重々しい空気のなかで奇妙なふたりは向かいあい食事を摂った。


 あの男は、体つきはしっかりしているわりにはゆびさきまで繊細で、硬いからこそ折れてしまいそうにどこか危なっかしくて、顔立ちも雰囲気も中性的で神秘的だった。悔しいけれど、とても美しく魅惑的なひとだ。
 私は意志に反して、思わず視線を奪われてしまうことがたびたびある。
 こんなにも素敵なひとなら正直、いつまでも不毛な恋を追いかけていないで、手に入れられる恋を探しに行けばいいのに、とも思う。憂いを含んだ横顔は、しとしとと外を濡らす雨を眺めている、苛々するくらい、一途なひとだ。





 私はテレビを消して、彼と過ごしている寝室にひとまず逃げようとした。この男を見ているといつも、気分がおかしくなる。胸の奥を突き刺されているようで、息苦しくなる。

 黙って寝室へ向かおうとした私は、いきなり手を掴まれ、ソファへ投げ倒された。細い体にはじゅうぶんなまでの、男としての力が備わっていることを思い知らされる。
 予期していなかった事態が襲いくる、覆い被さり無理矢理くちびるを奪われた私は、男が漂わす甘い匂いに堪らず躰の芯をふるわせた。
 キスも絡みつくみたいに甘く、それでいて荒々しく、腰が上手く立たなくなる。


「……あいつとしたんだろ?昨日も」
 くちびるを放した男は切なげな表情で息を乱し、私の服を引き剥がしてゆく。
「いやっ!やめて…っ、お願いだから…っ!」
 振り払おうと足掻いても、やはり相手は男だった、女の私ではびくともしない。そして皮肉なことに、私は感じて濡れていた。巧みなキスだけで、骨抜き状態にされてしまっていた。
 ずっと彼だけに恋焦がれているこの男は、どこでこんなキスを覚えたのだろう。

「ここに挿れられたんだ?つうか、何で濡れてんの?」
 脚をぐいと開かせた男はゆびで少しだけ入り口を弾いたあと、舐め回していった。
「あ…っやっ、あ…っ、ダメ…っ、ダメっ、やめてぇ…っ!」
 私は腰を跳ねさせて、中を奥までしきりに疼かせた。

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