邪魔な焦がれ人














 数ヶ月付き合った彼氏と、同棲を始めた。もとは会社の同僚で、立ち振舞いが隅々まで男らしく端正な彼のことを、私は心から愛していた。資金を貯めて、自分で新しく事業を立ち上げた彼は順風満帆のようで、生活は申し分ないほどに潤っていた。
 難なく頭金を用意できた彼は郊外に立派な一軒家を建て、一緒に暮らそうと私は提案された。二つ返事で一緒に暮らすことを決めた。

 けれど、彼との同棲生活には、驚くべきものが常に付き纏っていた。











「……あ…っんっ、声…でちゃうっ…っ」
 ベッドはすでに激しく軋んでいた、彼を深く膣に咥え込んでいる私は両手をきつく口許に当てる。
「何か困ることでもある?」
 笑った彼は動きを速めて、わざと嬌声を上げさせようとする。より一層大きく揺れたベッドが、今にも壊れそうな音を立てた。


 パンパンパンッ、パンッ――…!

「んっや…っ、ダメ…っ、そんな…っ」
 薄いスキンだけを隔てた彼に何度もぶつけられながら、私は左側の壁を見やった。音漏れについては抱かれるたびに気にしている、この家のなかに住んでいるのは、私たちだけではない。
「聞かせてやればいいよ」
 息を荒らげた彼は揺れ動く乳房を揉み上げて、乳首に舌を這わせた。
 舐め上げられたあと、吸いつかれた乳首は硬く膨らんで、ふるんと艶めく。

「あ…っあっんっっ!」
 戦慄いた私は絶頂を得て、上擦った声を響かせた。がくがくと腰がふるえて、掴み寄せられたヴァギナは強く彼を締めつけている。
 私たちのセックスの様子は、音となり、そのほとんどが隣の部屋へと聞こえてしまっている。隣の部屋ではきっと、“あの男”が耳をそばだてている。


「どうしよ、すっげえ気持ちいい」
 汗ばむ彼は耳もと囁いて、エロティックな吐息で聴覚を愛撫した。
「あ…っ、も…っ、ダメ…っっんっ」
 びくりと躰をふるわせた私は、彼の背中にゆびを立てる。低い声で浸透する囁きは、私だけに聞こえていると信じたい。
 ほんとうに気持ちよさそうに腰を振る彼は、私だけのものだ。私だけに向けられた愛の言葉は、余さず独占したい。





 “あの男”というのは、彼の幼馴染みらしかった。まず最初に、彼と一緒に男が暮らしているという事実に、私は面食らうしかなかった。
 ふたりだけで過ごせると思っていた時間は、見事に端から打ち砕かれた。

 あの男は、彼から離れることができないようだ。以前に暮らしていたアパートでもずっと一緒だったと明かされたとき、私は愕然とするしかなかった。

 私はあの男に心底嫌われている、なぜならあの男は彼のことを愛しているから。

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