ハッピーバースデーはカニバリズムで







 ベッドは絶え間なく、軋む。


 パンパンパンッ――…

「あっあっああっん、もっとぉ…っ」
 動きはより激しくなって、彼女は叫びのように訴えた。
 僕は勃起したあそこをどうにかすることもせず、ベッドのうえを見入っていた。

「あ…っ、イくっ、イくぅ…っ」
「イっていいよ?ほら…」
 声を上擦らせ、彼女はシーツを掴む。男は腰の動きを速め、彼女の耳を舐めまわした。

「あっ…ああっっ!」
 ビクビクと躰をふるわせて、彼女は絶頂を得たようだった。つまさきまで厭らしく痙攣させている彼女の姿は、この世で最も下品で最も美しいものに見えた。
 彼女と僕はこんなに近くにいても、決して交わることのない正反対の世界にいた。


 パチュッ…グチュッ…

「は…あっ、あ…あっん」
 しばらくイキつづけているあいだも動かれていた彼女は、自ら手を伸ばし男のモノを誘うように咥え込む。
 繋がっている部分が窺えないくらい、ふたりの体液が混ざりあっている。

 僕は盗み見を始めたときと同様に静かにドアを閉め玄関へと向かい、家路に就いた。
 僕という存在はまるで、最初からそこにはいなかったみたいにひどくぼんやりと街灯に照らし出された。勃起しているあそこには痛みが走り、全然収まってくれないから僕はダージリンティーの紙袋で隠して夜道を歩いた。
 袋が大きくて良かったと、思いながら僕は声も上げずに泣いた。











「……っ、う…っ」
 帰宅してからは玄関のドアにもたれて、他の男とセックスをしている彼女のことを考えながら、抜いた。
 自分は穢れていると思うほど、手の動きは速くなった。

 ドプッ…ドプッ――…

「……っっ!」
 絶望的な快感に酔いしれ、僕はすぐに射精をした。玄関の、灰色のタイルのうえにとても穢れた精液が飛び散る。サプライズのために用意した紙袋にも、染みができて広がる。
 白く濁った体液は男のものと区別がつかないように見えても、僕のでは彼女を汚すことができない。

 僕はようやく、声を上げて泣くことができた。
 泣きながら、彼女の誕生日にだけはへまをしないようにと、必死になって自分に言い聞かせていた。











 …――――そうだ、あのときのことを思い出した僕は、罪の意識に堪えきれなくなって自ら身を投げたんだ。
 頭を打ち付けてしまったせいで、忘れていた。僕なりの贖罪をただのハプニングと勘違いをして、彼女にまた迷惑をかけてしまうところだった。

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