※※第355話:Make Love(&Gratification).215
しばらく、遠ざかってゆく夕月の後ろ姿を見ていた薔は、再び薔薇の花束に視線を落とした。
「俺が帰れなかったら、ナナはどうなるんだろうな……」
余裕の笑みを浮かべて、彼女に想いを馳せる。
閉じ込めてきてしまったから、彼だけの世界に。
彼の帰りを待ちわびて、快楽に溺れて、彼だけを欲しがる余生は果たして幸せだろうか。
捕らえてしまった心が、離れることはあるのだろうか……。
「って、考えるだけ無駄だ、」
急に真剣な表情になった薔は、致し方なく、不審者を探し回っている担任に教えてやることにした。
ここで待機するよう言ったのはあのいかがわしい担任なので、守るつもりは端からない。
竜紀から身を守るグッズらは、薔が持ち歩いていなくても、こけしちゃんの粋な計らいにより眼鏡だってちゃんと持ち歩いているのだった。
「あの眼鏡はほんと、疚しい事には隅々まで頭が回るくせに肝心なとこは抜け落ちるよな。」
呆れ気味で溜め息をついた薔を遠くから、見つめる瞳があった。
目的に辿り着く前に、仕留めればいいだけの話だった。
触れてはいけないと自分に言い聞かせながらも、最高に美しい肌に触れてそっと愛撫をして、また、あの首を絞め上げて苦しむ表情が見たかった。
――――――――…
「あっあっっ…あっ、あんっっ!」
また達したナナはガクンと全身の力が抜けて、拘束具を肌に食い込ませた。
痣にはなっていないが、確実に、躰を捕らえて離さない。
そのときいきなり、寝室のドアが開いた。
彼が帰ってきたのかと期待に胸が躍った彼女は、懸命に顔を上げる。
「薔…っ?」
見えていないので、確かめた。
けれど返事はなかった。
「え…っ?あ…っ、薔…っ?」
おどおどとナナは呼び掛けるが、やはり返事はなく、ベッドサイドにあるナイトテーブルが軋んだ音がした。
「あの…っ、あ…あっ、」
この状況で寝室に入って来るのは彼だとしか考えられず、ふるえているナナの隣から気配は消えていった。
ドアが静かに、パタンと閉まる。
なんと!帰ってきてらっしゃるのにまだ、放置!と思ったナナは泣きたくなった。
というかこんなにも淫らに仕上がっている自分を見て、薔が何もせず、しかも無言で出ていくのは異例中の異例だと感じた。
つまり、入ってきた何者かは、ナナの姿を見ないように細心の注意を払っていたのかもしれない。
見ていいのはご主人さまだけなので。
結果、ナナをさらに焦らすことに成功したかもしれない。
不穏な空気を感じ取っていた花子は、ナナの携帯をお借りして、例のこけしちゃんのお札画像をご主人さまのスマホに送っておいた。
画像でも効果があることは立証されており、見張り番よろしくドアの外におすわりしていた豆と花子はわんこ同士で手を取ってはしゃいだ。
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