※※第364話:Make Love(&Foam).221
驚愕と動転がダブルで襲いかかってきた綾瀬は、顔面蒼白になり冷めかけのエスプレッソを一気飲みした。
もしも萌がほんとうはホラー映画が苦手で、でもそれを言えないまま自分の趣味に付き合っていてくれたとするなら、確かにあの三本立ては堪えきれなかっただろうと思った。
好きな女の子にそんな残酷な仕打ちをしていたなんて、自分がまるでサイコパスみたいで、エスプレッソの苦さだけではまったく足りなかった。
「でも、ほんとは苦手なのに、綾瀬くんがホラー映画大好きだからほんとのこと言えずにいるなら、萌ちゃんは確実に綾瀬くんのこと好きだよね?」
「えっ?」
奢ってもらっているからか、真依はフォローも忘れなかった。
ちょうどカフェラテはおかわりさせてもらったばかりだし。
「好きな人には嫌われたくないって、思うじゃん?がっかりもさせたくないし。だからホラー映画が苦手でも、好きな人が好きなら否定になっちゃいそうで怖くて苦手だなんて言えないじゃん?綾瀬くんの好みをすごく大切にしてる気がするから、萌ちゃんは綾瀬くんのこと好きなんだと思うよ?」
真依は思ったままに、綾瀬を諭した。
ホラー映画がじつは苦手だったからと言って、肩を落とす必要はない。
自分と趣味が合わなくとも、彼女を受け入れ、彼女の趣味を受け入れることが大事なのである。
自分の趣味を一方的に押し付けるのではなく、彼女の趣味も重んじて、共有してゆけばいい。
「萌ぴょんが、……僕のことを好き?」
唖然としながらも、綾瀬は頬を赤らめた。
ホラー映画が苦手でもいいし、何ならホラー映画を罵倒してくれてもいい、どんなことがあっても自分は萌が大好きだ。
じつは両想いだったなら、これ以上に幸福なことはない。
「高良先輩、ここのメニュー全部頼んでもいいですよ……?……僕、リボ払いで何とかするので……」
ニタァと笑った綾瀬は、心持ちが太っ腹になった。
が、所持金では足りず、あろうことかクレジットカードのリボ払いに頼ろうとしている。
「いいよ!リボ払いなんてホラー映画より怖いからやめてよ!」
しかしながら、リボ払いで太っ腹なのは人生が非常に危うくなるので、真依は全力で断った。
綾瀬をリボ払いの地獄に落として、萌に恨まれるのは毛頭御免なので。
綾瀬は本気で言っているが、こういうときに決してギャグでもリボ払いの話を持ち出さない屡薇に、真依は惚れ直した。
綾瀬とカフェで会っていたことを知ったら彼はやきもちを妬いて怒るだろうけれど。
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