※※第357話:Make Love(&Schoolmaster).217








 血が滴り落ちる紅い薔薇……を彷彿とはさせなかったかもしれないが圧倒的な美しさを以て、薔はステージに立っていた。
 今日は彼に近づけないと悟った竜紀は端から諦めていたのか、姿はどこにも見えなかった。

 薔には何よりモデルの経験があるため、生業としていなくとも立ち振舞いからして別格だった。
 主催者たちや招待客は、惚れ惚れと溜め息をつくしかなかった。




 (薔は……焦れったくないんですかね?)
 惚れ惚れしてメロメロになっているナナはふと、疑問に思った。
 自分は焦れったくておかしくなりそうで見せつけられる彼の色気にもやられて堪ったものではないのに、彼は威風堂々としているのがちょっと不思議に思えた。
 でも、明らかに焦れったい感じでステージに立たれたら鼻血ものとかそういうレベルではないので、危険回避なのかもしれないとも思えてくる。

 さっきまであんなにもエッチなことをしていた王子ちゃんさま先生が……と考えると、ナナは興奮した。
 ここにいる誰も、自分以外は、彼のその姿を知らないのだ。


 薔は涼しい顔をしておきながら、客席にいるナナへと密やかに挑発的な視線を送ってくるのもたちが悪かった。
 否応なしに感じて、今すぐにでもまた抱いて欲しくなる。



 「やばい……あのひとにもし彼女がいたら宇宙で一番羨ましい……」
 「うん、それ思った……」
 詳しく会話が聞こえてくる距離にいるカップル(女の子たちではなくカップル)のやりとりが聞こえてきたナナは、真っ赤になる。
 女性からも男性からも、宇宙で一番羨ましいと思われているわけである。
 しかも控え室でエッチしちゃったから、もう。


 薔の出番は長くなく、他のモデルと同じ尺だったものの、やはり生まれ持った美しさは圧巻だった。
 一番の盛り上がりを見せた登場だった。





 (あ、あれ……?)
 歓声に包まれていたナナは、竜紀の置き土産に触れてしまったのか。
 彼がいなくなったステージが、一瞬、遠ざかったような錯覚に陥った。
 代わりに、目の前に、暗い水が溢れた。

 その中でナナは、誰かの手を取った。
 まだ小さい、子どもの手を。

 泳げないなりに、必死になって、その子を助けようとした。
 もし、自分がちゃんと泳げていたら、その子は意識不明の重体にはならなかったかもしれない。


 憶えていないはずの光景や感情を、ナナは鮮明に憶い出していた。
 どうして自分が、溺れている薔を助けようとしているのか。
 まだ幼い薔の感覚を、知っているのか。

 ナナにはまだわからなかった、けれどじわじわと、真実は愛を蝕もうとしていた。

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