※※第357話:Make Love(&Schoolmaster).217
















 屡薇と真依はちょっと久しぶりのデートで映画を観たり一緒に買い物をしたりした後、結局、ふたりで彼のマンションに来ていた。
 何も異議を唱えることなく素直に誘いに乗り、真依はついて来てくれた。
 期待が高まる屡薇はムードを壊さないようにと心を鎮めようとしているが、どうしてもムラムラしてしまう。
 彼女に悟られてはいけないと思いつつ、その気がないのに果たして部屋まで来てくれるかどうかを疑問に思う自分もいた。

 襲ってもいいのなら、今すぐにでも襲いたい。




 「ちゃんと部屋掃除してるなんて、偉いじゃん。」
 「いや、真依さんを誘う気満々だったから昨日慌てて掃除しただけ……」
 「ああ、そう、褒めて損した。」
 真依にはいちおう彼を褒めるくらいの余裕があり、屡薇の正直な返しにも怒ったりはしない。
 ムードはなかなか良いのではないかと思われた。

 「えっと……何か飲む?」
 ムードを壊さないよう気をつけながら、屡薇は尋ねる。
 ミネラルウォーターもお茶もあるしジュースもあるし、何ならアルコールも用意してある。
 銃弾から発射される白いアレとかでも……何でもない。



 「え?」
 聞かれた真依は明らかに、動揺した様子だった。
 正しくというか健全に飲み物を答えるべきか、ここは彼の誘惑と捉えて卑猥なことを答えるべきか、わからなくなったからだ。
 (お茶でも飲む?……って聞いたほうが良かったんだろうな、これ!)
 彼女の戸惑いの理由がわかるからこそ、屡薇は後悔した、具体的に飲み物の名前を提示すれば良かったと。
 狂暴な銃弾が意に反して暴れだしそうで、困ってしまう。


 「お茶にしよう、お茶!」
 元気よくその場を取り繕うと、屡薇は強引にお茶に決めた。
 この日のために買っておいた紅茶(アフタヌーン)を、美味しくなるまでの時間を計るとかできないので色みが出た段階で適当にカップに注ぐ。
 ソーサーを用意するのは面倒だったので、砂糖とミルクも適当にテーブルへ置き紅茶を出した。

 彼がこんなふうに紅茶を用意できることが意外で、真依は唖然としている。



 「屡薇くん、このティーカップの柄、……紅い薔薇だね?」
 「ごめんね、ヴィジュアル系だもんで。決して薔ちゃんと俺を意識しているわけではない。」
 今にも血が滴り落ちてきそうなほどの深紅の薔薇が描かれたティーカップを、真依はまじまじと眺めた。
 真面目な顔で答えた屡薇は性(さが)で買ってしまっただけで、柄が薔薇であることには彼女に言われて初めて気がついた。

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