※第44話:Love(&Thorn).35







 「準備はいいな?」

 「ワン!」
 「はい!」

 食休みも程よく為され、いよいよ、お散歩の時間です!!










 今のところ何事もなく、夜道を歩いております。
 煌々と照らす月も瞬く星々も、きっと今まで共に見上げてきた、わたし達の味方です。


 (…あれ?そういえば、さっきのニュースって、この街で起きてるんだよね?)
 重要な部分についてはまったく聞いていなかったナナだが、ふと思い出していた。

 (わぁあ…!しかも被害者のかた、みなさん若かったよね!?15とか16とか!)
 と思ったナナは、

 ……はっ!!

 として、隣で花子のリードを引いて立派に歩いている、薔を見上げた。



 (このひと、まさしく15歳だよ―――――――――っ!!)



 …あわわわわわ!




 (どうしよう!?なんてったってとんでもなくかっこいいし、キレイだしかわいいし、いい匂いだし、髪サラサラだし、じつはやさしいし、えっと、これはきりがないな!とにかく、狙われちゃうよーっ!)
 重要な部分は聞いていなかったうえ、被害者はみな少女だという事実を、すっかり忘れているナナさんです。


 「危ないです!帰りましょう!」
 「あ?」

 ふたりのこの会話の直後、

 ぴたり

 優雅に歩いていた花子が、立ち止まった。


 「ヴウ゛ゥ゛――――――…」
 そして、呻く。



 目の前に、ちょっと古風な男性が二人、立ちはだかっていた。




 (出たぁあ―――――――っ!)
 慌てふためく、ナナ。


 オトコらについて簡単に説明させていただくと、ひとりは長髪を束ね貴族的カッコでまぁ細身、もうひとりは短髪で質素なカッコでマッチョ、だった。
 細身のほう、仮にAとしよう、はたれ目で面長、マッチョのほう、仮にBとしよう、は顎が特徴的なゴツ顔だった。




 「これは手間が省けた。」
 オトコAが言うと、
 「ほんとですね、アダルさま。」
 オトコBがこう言ったので、未だ容姿についての詳細はあまり明かされていなかったリリュークかもという予想は、覆された。


 「やっと来たか。」
 薔はいつもによって、落ち着いております。


 「え?来て良かったの?」
 「良くはねぇよ。」
 普通に彼は、オトコらと会話をしておりますが、

 (どどどどどうしよう!?一番狙われそうなひとが、一番落ち着いてらっしゃるよ!)

 見た目少女のナナは、慌てまくった。



 「なら、話は早い。」
 オトコAとせっかく設定したのに、早くも名前が明かされたアダルは余裕の笑みを浮かべた。


 「ボクらの一番の獲物は、君なんだ。」


 そして明らかに、薔を指差した。





 「こいつは俺の女だ。」
 指差された薔だが、そう言い放ってナナを抱き寄せる。

 「えええ!?明らかにボク今、君を指差したよ!?」
 「だれが差していいと言った?」

 「えええええ!?」

 この間、ナナは真っ赤である。
 花子は落ち着いていた。


 心底怯えるかと思っていたオトコらだったが、予想外の展開に慌てだした。


 「ま、まぁ、いいさ。大人しく着いて来れば、痛い目には遭わさな」
 「待て。」

 ……………はい?

 ナナを抱き寄せたまんま、薔は堂々と言ったんです。



 「俺のこいつは最近、BLにハマりつつあってな。もしこいつが生で見てぇと言うなら、今ここでキサマらを嬲ってやってもいい。」


 とね。




 ぇぇぇぇぇぇええ!?




 「“びーえる”とか“なぶる”って、何のこと!?」
 余裕どころではなくなったアダルは、青ざめる。
 「知りてーなら、辞書を引け。」
 やっぱり辞書が、ご登場です。


 「見たいわけありませんでしょうーっ!?」
 「それもそうだな。だいたい、こんなんが受けじゃ、俺も萎える。」
 「はいーっ!?」

 なんとまぁ、この会話を聞きながら、花子は尻尾を振ってはしゃぎだしました。




 「あああ頭きた!モンズグ、やってしまえ!」
 「はい!」
 名前それでいいのか?というオトコB・モンズグが筋肉をむき出しにして突進してきた。




 「ひぎゃあ―――――――っ!」
 ナナは悲鳴をあげて、薔をかばおうとしたが抱き寄せられ中で無理だった。




 よって、


 ドガッッ―――――…!


 激烈なまでに股間を蹴り上げられた。


 のは、もちろん、モンズグであった。




 「ふごぉ………!」
 痛恨の泣き呻きと共に股間を押さえて、モンズグは倒れ込む。

 「モンズグーっ!?」
 アダルは駆け寄る。



 (えええええ!?すごい!)
 ナナは、大感激。


 薔はナナを抱き寄せリードを持ったまんま、モンズグの股間を瞬時に激しく蹴り上げた。



 「おい、そこのまさしく張りぼて。跳躍力はそこそこだが、手足が短すぎる。もっと間合を詰めて、高く蹴り上げろ。」
 「詳しくどうもだけど、モンズグの筋肉も評価してあげてよ!」
 見下ろす薔と、泣きそうなアダル。

 「ド気色悪りぃほどについてんなら、せめて生かせよ。無駄になるぞ?それでも男か?」
 「評価になってない!」

 ここいらで、ナナはどや顔を押さえきれなくなった。


 「あぁ、そんだけ痛てぇんなら、男だったか。どーせちっせぇだろうが。」
 「もう、いいよーっ!」

 このときアダルは身を乗り出したため、

 「ガゥ゛ゥ゛―――――…!」

 花子の防衛本能が働き、彼女は威嚇を最大限に発揮した。



 私のご主人さまに、そのパサパサの髪一本でも触れてみなさい!?全部噛みちぎるわよ!?
 と花子は怒っております。



 ……ひぇえ!
 さっきまで、尻尾振って喜んでたのに!



 「なにその子!ちっちゃい肉食恐竜!?」
 「失礼にもほどがある、花子だ。謝れ。」

 どうやらアダルは、薔の静かな逆鱗に触れてしまったようだ。


 「謝れ。」
 「すみません!ほんとすみません!ソコを足では…、やめて!!痛い痛い!」



 半泣き状態のアダルは、

 「もうやだーっ!」

 股間を押さえながら、冥界垣間見中のモンズグを抱え、猫背を向けると走り去った。




 「なんだ?アイツのが、少しは力あんじゃねーか?」
 そう呟く薔と、
 「ガヴゥ゛…」
 未だ威嚇中の花子。


 (ぉぉぉおおおわ!?頼もしすぎるーっ!)
 そして、大絶賛感動中の、ナナ。

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