※第44話:Love(&Thorn).35









 『Blow!!!!!!』


 手を取り合い、立ち向かおう。

 向かい風だろうとなんだろうとすべて、この手で追い風に変えてやる。












 「……ローズさま?」

 ニュースを見ていたナナは、ぽつりと言った。

 花子は未だ、じっと画面を見つめている。


 うーん…、
 ローズ……、

 改めて辞書を、引くまでもない。


 (ローズって、薔薇だよーっ!!)


 …あわわわわわ!!


 この場合日本語には訳さなくても良かったのだが、なんてったって主人公が訳してしまった。



 「おおおっ!すごいよ、わたし!あんなに難しい漢字なのに、最初のおひとつは完璧に書けるよ!書けなきゃ困るが、偉いよ!」
 はしゃぎまくったナナは、勢いよく立ち上がった。
 いったんテレビから目を離した花子が、つぶらな瞳で見上げる。
 しかし、すぐさまニュースへと視線を戻した。


 「ちょっともう!どこかに書いて、確かめたいよ!どこに書こう!?どうしよう!?」
 そんでもってナナはウロウロするまえに、

 「ああ!あった!」

 近くに置かれていた、ティッシュ箱を手に取った。


 「この箱なら、どこかに書けそうだよ!?でもペンは!?」
 キョロキョロ中のナナですので、
 『この事件には、不可解な点がいくつかあるのです。まず被害者の少女達はなぜ皆、姿を消す前わざわざ何回か、この街へと足を運んだのか?この街在住の被害者は、一人もいないのです。そして…』
 というニュースの内容は、まったくもって頭に入って来ていません。
 かなり重要な部分なので、ちゃんと聞いておいてね!花子!


 「えーと、」
 ウロウロに取りかかったナナだったが、


 「おい、」


 堂々と声を掛けられた。



 「なに持ってウロついてんだ?一人でシてたのか?」




 おぉお――――――――っ!?




 「わあぁあ!まさしくローズさまぁ!」
 「あ?」

 感動のあまりつい、のナナさんですがね。


 「だれだ?ソイツは。俺はおまえを愛しすぎてどうかしそうだが、おまえはそんな俺の名前をもう忘れたのか?」
 薔は瞬く間に、不機嫌になった。

 …………え?
 いま、とてつもなく嬉しいコトを、さらっとおっしゃいましたよね?

 「忘れたなら、二度と忘れられなくなるまで思い出させてやる。来い。」

 うぎゃあ――――――――っ!!


 「ちょっと待って!待ってください!わたしも好きです!薔っ!薔!」
 「覚えてんじゃねーか。一時的なものか?」

 この会話の最中もナナは手を引かれており、このままだと、ベッドインしちゃいます。

 「違いますってーっ!いまニュースで言ってたんで…、って、どこ触ってるんですかぁ!?」
 「おまえだっていつも、さわってんだろ?」

 どこをさわって、いるのだろう?


 「やっ、あのっ、そんなとこ…っ、…あッ、ン、だめっ、」
 触られた時点で、火照ったナナは砕けまくってしまった。

 「おおかた、辞書好きなおまえのことだ、訳したんだろーが、ご褒美の前にお仕置きだ。」
 ぐったりの彼女を、そっとソファに横たえた薔に、

 「じ、辞書好きは…、どちら…、」
 ナナはなにかを言いかけた。
 しかも、こちらでもご褒美のような気がしなくもない。




 そのとき、花子の耳が、今までにないほど、ぴくっとした。




 ナナの口に、薔の右手の人差し指が、そっと当てられる。

 ドキッとする、ナナ。


 「静かにしてろ。」
 カーテンがかかる窓を鋭く見つめ、囁くほどの低い声で薔は告げた。









 (え………?)
 唖然とするばかりのナナのまえ、すっと立ち上がる、薔。

 彼は堂々とではあるが物音ひとつ立てず、窓に近づいていった。


 心臓はバクバクしているが、ナナは一所懸命に、静けさを保つ。

 花子はまばたき以外、微動だにしない。




 シャッ!

 窓にたどり着いた薔が、素早くカーテンを開ける。






 窓の外には、誰もいなかった。




 「……逃げたか、」
 静かに口にした薔は、窓の外を見下ろしている。


 「ゥ゛―――――…」
 わずかに呻く、花子。


 ナナばかりがキョトンとしているなか、

 「このままだと真夜中、めんどくせぇ事になるな、」

 薔はカーテンを、ゆっくり引いていった。



 「おい、ナナ、花子、」

 そして言いました。



 「ちょうど良かった、飯のあと散歩に行くぞ。」







 「ワン!」
 「えええ!?」

 大喜びの花子と、びっくり仰天のナナ。


 「大丈夫ですかぁーっ!?」
 「安心しろ。俺と花子がついている。」

 …ぇぇぇええ!?

 「わたしいちおう、ヴァンパイアーっ!」
 「いーからはやく、来い。」


 ということで、腹が減っては戦ができぬか、みんなして美味しく夕食の時間と相成りました。

[ 488/550 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]


戻る