第4話:Game(+Sadness).2




「三咲さん!」
「……は、はい?」

 気がつくとナナは、あまり面識のない教師に、手を握られていた。
「あ、あのー…」
「わたしはね、音楽教師の八千草(やちぐさ)、ちなみに絶対音感を持っているの!」
 音楽の先生かぁ。
「あなたのピアノ、素晴らしかったわよ!」
 …………………ピアノ?
「なんのことだか、よくわからないんですけど……………」
「本当に、素晴らしかったわ!」
 オイ!わたしの話を聞け!
 わたしの話を聞かない権利をもってるのは、おそらくたったひとりだけだよ!



 (あれ?そういえば………………)

 わたしも聴いた、ピアノの音。
 したがってあれは、わたしなんかじゃない。
 そもそもわたし、ピアノはいっさい弾けません。
 じゃあ、いったい、




 あれは、だれ――――――…?




 しかし次の八千草の一言で、ナナの謎は解けた。


「素晴らしく“絶対的な”、かなしみを奏でていたわよ!」


 ……………………!!




 そうだ、音楽室には、“たったふたり”しかいなかった。

 気がつかなかったなんて、わたし、どうかしてるわ――――…



「……そんなに、かなしかったんですか?」
「もちろんよ!」
 ナナは無意識のうちに、拳を握りしめていた。

「あれほどまでの深いかなしみは、かつて目の当たりにしたこともないくらいにね!どんな生き方をすれば、あのかなしみを表現できるのか……………」
 ここまで言ってからナナを見た八千草は、ギョッとした。

「どうしたの?三咲さん……………」

 ナナの頬に、触れる。




「アナタ、今にもまた倒れそうな顔してるわよ?」









 ……………かなしみとは、なに?

 背負っているの?
 繋がれているの?

 そんなことないよね?
 あなた、なら。








 このとき、音楽室の入り口にて。
 ただひとり、笑っていたひとがいることは、言うまでもない。

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