第4話:Game(+Sadness).2
「三咲さん!」
「……は、はい?」
気がつくとナナは、あまり面識のない教師に、手を握られていた。
「あ、あのー…」
「わたしはね、音楽教師の八千草(やちぐさ)、ちなみに絶対音感を持っているの!」
音楽の先生かぁ。
「あなたのピアノ、素晴らしかったわよ!」
…………………ピアノ?
「なんのことだか、よくわからないんですけど……………」
「本当に、素晴らしかったわ!」
オイ!わたしの話を聞け!
わたしの話を聞かない権利をもってるのは、おそらくたったひとりだけだよ!
(あれ?そういえば………………)
わたしも聴いた、ピアノの音。
したがってあれは、わたしなんかじゃない。
そもそもわたし、ピアノはいっさい弾けません。
じゃあ、いったい、
あれは、だれ――――――…?
しかし次の八千草の一言で、ナナの謎は解けた。
「素晴らしく“絶対的な”、かなしみを奏でていたわよ!」
……………………!!
そうだ、音楽室には、“たったふたり”しかいなかった。
気がつかなかったなんて、わたし、どうかしてるわ――――…
「……そんなに、かなしかったんですか?」
「もちろんよ!」
ナナは無意識のうちに、拳を握りしめていた。
「あれほどまでの深いかなしみは、かつて目の当たりにしたこともないくらいにね!どんな生き方をすれば、あのかなしみを表現できるのか……………」
ここまで言ってからナナを見た八千草は、ギョッとした。
「どうしたの?三咲さん……………」
ナナの頬に、触れる。
「アナタ、今にもまた倒れそうな顔してるわよ?」
……………かなしみとは、なに?
背負っているの?
繋がれているの?
そんなことないよね?
あなた、なら。
このとき、音楽室の入り口にて。
ただひとり、笑っていたひとがいることは、言うまでもない。
[ 38/550 ][前へ] [次へ]
[ページを選ぶ]
[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]
戻る