第35話:Game(=Family).30





 「これはなにかあるなぁ、沖里のヤツ、」

 胸を張って廊下を歩く夕月はそう呟き、髪をかきあげて、

 「まぁ、沖里では、なにも支配はできねーよなぁ。押し付けもいいとこだ。」

 クックッと、笑う。



 「しっかし、あいつは、なんにも変わってなかったな、いい意味で。」

 夕月は、つづけて、



 「あのネックレスを見てたときの、愛おしそうな表情(かお)、ゾクゾクしたよ。」



 ふっと、うえを向いて、微笑み呟いた。




 「撮りてーとこだが、それじゃ意味ねえかんな。俺だって何とかしてやる。」
 つぎに夕月は、しっかりとまえを見据えて、


 「だてにお前の父親代わり、やってたわけじゃねーんだよ。」


 力強く、告げた。




 彼は颯爽と優雅な足取りで、廊下を歩いていったのだった。










 その頃、同じスタジオで、別の、メイク室にて。

 「愛羅ちゃん、君はとってもかわいいのに、野心がなくてダメだよぉ。」

 お久しぶりなうえ二回目の登場の、妖艶さにおいて毒グモの胡桃澤 愛羅は、メイクを施されていた。


 「だって、あたし、学園祭のミスコンですら、二位だったもん。」
 きれいなおでこを出している愛羅は、くちをとがらせて呟き、

 「えええ!?なに、じゃあ、一位の子はどんだけキレイなのぉ!?」

 仰天したスタイリストは、手を止めていた。


 「い、いや、ミスコン一位の子がキレイ云々じゃなくて、相手の方がすごすぎたんですって。」

 控えめに明かした愛羅だが、

 「はい………?」

 スタイリストにとってはまるで意味不明なので、彼はキョトンとした。




 (てか、なんか知らないうちに、薔さまのほうが有名になっちゃってるんだけど!)
 こう心で叫んだ愛羅は、

 「はい、いちだんとキレイになったよ!」

 メイクを終えて、毒グモっぽく変身していた。






 やがて、ほんのわずかだが雑誌の撮影のため廊下に出た愛羅は、


 (げえっ!!)


 青ざめた。



 「ちょっとお、あたしこの子がほしいんだけど、だれか探してきてぇ。」


 こう言って、とある雑誌を見ているのは、


 (最上 佐江子(もがみ さえこ)!)


 いまや飛ぶ鳥を落としまくる勢いで大人気の、女優・最上 佐江子だった。


 国民的アイドルで大人気だが、業界では性格に問題がありすぎることで有名だった。




 女優、モデル、歌手、色々こなしていて羨ましすぎる存在だが、憧れにはならないほど、愛羅は彼女を敬遠していた。

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