※※第34話:Make Love….3








 ザァア――――…

 どしゃ降りの大雨のなかを、傘もささずに、とぼとぼとナナは歩いていた。

 顔の泥は流れ落ちたが、制服は、泥まみれである。

 膝をすりむいたが、ヴァンパイアのため、その傷はすぐに消えたのだった。



 ちからなく落とした手には、びしょびしょになった傘を持っており。

 勢いよく落としてしまったため、傘骨は折れてすこし曲がっていた。







 ガチャ――――…

 たどり着いた自宅で玄関のドアを、おもむろに開けると、

 「あれ?ナナ?」

 なんと、会社帰りのナナ父が、靴を脱ごうとしているところだった。


 「どうしたんだ!?傘持ってるのに、お前、ずぶ濡れじゃないか!」

 父は心配そうに娘を覗き込んでから、

 「ま、待ってなさい!今、タオル持ってくるから!」

 靴を脱ぎ捨て、いそいそと廊下を駆けていった。



 ポタポタ―――…

 拭うこともしないので、ナナの髪や顔からは、水滴がしたたり落ちる。


 ほどなくして父は、バスタオルを抱え戻ってきた。


 「ほら、これで拭きなさい!」
 そしてナナへと差し出すのだが、

 「………………、」

 娘には、まったく、聞こえていない様子だ。


 「よし!お父さんが、拭いてあげよう!」
 すると父は、バスタオルで一所懸命に、ナナの体を拭きはじめた。
 そして、折れ曲がったびしょ濡れの傘をそっと受け取り、玄関わきに立てかける。

 「お風呂沸かしてきたから、拭き終えたらすぐに、入りなさい!」
 バスタオルは泥がこびりついていくが、父はまったく気にしておらず、

 「風邪でもひくと、いけないからな!」
 ちからづよい声を、いつにもなく出している。


 「さぁ、一通りは拭いたから、すぐにお風呂、入っておいで。」
 そう言う父のシャツにも、泥がすこし飛んでいた。



 「お父さん……、」

 このときナナは、ようやく口を開いた。


 「ありがとう………。」



 「おおお!?お前は大事な娘だから、当たり前なんだぞ?」

 笑った父は、娘のあたまをなでなでして、

 「はやくお風呂、入って、あったまっておいで。」

 やさしく、言ったのだった。




 「うん…、」

 ナナはフラフラと、廊下を歩いていった。



 「あの子、靴履いてなかったなぁ。」

 ナナ父が見送っていると、


 「帰ったわよ。」


 ナナ母が帰ってきた。




 「ハニー!おかえりぃ!」
 父は、はしゃぐ。

 「雅之、シャツに泥をつけて、どうしたの?」

 至って落ち着いている母は、

 「あら?」

 玄関がかなり濡れていることに気づいた。




 「15時頃からいたから、気を利かせて抜け出したんだけど、予想外の雨だったわね。」
 「はい?」
 妻の言っている内容は、夫にはまったく理解できていない。


 「雅之、」

 すると、ナナ母は言った。



 「あの子は、かなり重症よ。」


 と。



 「えええ!?ヴァンパイアなのに、なんの病気にかかったのぉ!?」

 ナナ父は、青ざめた。


 「安心なさい、これはまさしく、“愛”よ。」

 背高き妻は、夫を見つめて、


 「だてに私たちも、388年生きてきたわけじゃないんだから、娘のちからに、なってあげましょうね。」

 微笑んだ。




 「ハニー!もちろんだよ!」

 感動のあまり、うるうるとし出したナナ父。



 に、

 「野暮はダメよ?治せるのは、私たちじゃないんだから。」

 こう付け足した、ナナ母。




 「なんだかいまいちよく理解できないけど、よくわかったよ!」

 テンションあげた夫は、

 「いっぱい今日も、買ってきたね!それは、なんだい?」

 妻がさげている袋の中身について尋ねた。




 「コアラのマーチ、よ。」
 「へぇ!コアラって、3月と深い関係があるんだね!」

 ナナ父は、マーチの意味を間違えて解釈した。



 「あなたのほうが理解に苦しむけど、一緒に食べる?」
 「ぇえ?もちろんだよ!」

 夫婦は、連れ添って廊下を歩き出す。


 「いちおう、ご褒美よ。」

 ナナ母はこんなことを言って、ナナ父はあたまに、はてなマークを浮かべていたのだった。

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