第33話:Game(&Each…).29







 なんの、ポスター、だろうか?

 ナナはその場に、立ち尽くす。

 からだが、熱いのか寒いのかわからない、感覚を失くしてゆく。





 ファッションブランドの、ようだった。

 凝った世界観と、無駄のない雰囲気。



 いや、しかし、シックな衣装に身を包んだそのひとは、




 明らかに、薔だった。





 ドサッ――――…


 肩にさげていたバッグが、滑り落ちる。


 「………………、」

 ただ、ただ、呆然とちからなく、立ち尽くしていたが、



 ス―――――…

 おもむろにバッグを拾い上げると、ナナはフラフラと歩み寄っていったのだった。






 「なんだか、すごいね、この子、」
 ポスターを眺めているギャラリーは、そんなことを話したりしている。

 「ほんとすごいんだけど、見覚えが、あるような、ないような…、」




 なんにも、聞こえてはいなかった。
 たくさんの人のなかで、向き合ってはいるのに、なぜかこんなにも、遠く感じて。




 「キレイ、ですね…、」

 ふるえるナナのくちびるから、やっと出た言葉。




 …――これは、あなたが、ほんとうにやりたかった、ことなのですか?

 それとも―――――…







 「うぅ…っ…う…………」

 言葉はつづかず、つぎに出てきたのはこらえきれない涙。

 「うぇぇ……………」

 両手で顔を覆って、ナナは泣きじゃくる。



 「どうしましたか?」
 あまりの泣きように、まわりが心配そうな声を掛けてきた。

 「うっ……う…っ…………」

 しかしナナは、肩をふるわせて泣きつづける。





 ……泣かせて、くださいよ。

 どんなかたちであろうと、あなたのまえで、には、変わりないんですから。

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