第32話:Game(+Game).28





 時間を忘れられるほど熱く繋がっていたが、気づくと日付は変わって、夜中の1時を過ぎていた。


 『おまえ、もう眠いよな?』

 ふっと、話が途切れたとき、薔はやさしく問いかけて。

 「え?ぜんっぜん、大丈夫ですよ!眠気とか、なんであろうと、薔に勝るものは存在しませんよ!」

 ナナはやたら、明るく答える。


 『ほんっとかわいくて、仕方ねーよ、おまえが。』

 そして、また、笑う彼に、心臓を鷲掴みにされたかのようで。


 『声が聞けて、よかった。もう、寝てくれ。』

 ほぐすのかさらに掴むのか、穏やかな声は染み入った。





 「え―――――…?」
 キュッと、携帯を持つ手にちからがこもる。


 そんな彼女へ、


 『ナナ、』

 すっと、やさしく真剣な声色で、薔は力強く告げたのだった。




 『愛してるよ。』






 「わ、わた」

 ナナの愛を確かめるまえに、

 ツ―――――…

 電話は、切れた。





 「わたしも、愛して、ます、薔…、」

 切れてしまったあとだが、ちゃんと言葉にしてから、ナナは毛布をあたままでかぶった。


 泣きたい。

 でも、泣かなかった。


 一番に泣きたいひとは、きっと、わたしじゃなかった。






 それから夏休みに入るまで、薔は、学校へは一度も姿を見せなかったのだった。










 『あ〜、我が校のみなみなさまぁ、校長先生だよ〜。』

 明日から、夏休み。

 終業式は第二体育館で行われており、ステージでは暑そうなスーツ姿で、校長先生がマイク片手に喋っております。
 どうやら校長先生は、クールビズという言葉とは無縁のようだった。



 『なんか、明日から夏休みでさ〜、終業式を楽しみにしてたのに、色気のない式に、なっちゃったね〜。』

 やはり変態チックな校長なのだが、生徒たちはやたら、頷いていた。


 『だからね〜、もう、この式お開きにするよ〜。みなさんそれより、一刻もはやく、夏休みに突入して〜。』

 こう言った校長は、マイクを置いてステージをおりていったのだが、


 ほとんど前置きみたいなので、終わったよ―――――――っ!!


 校長以外は、こころでそうツッコんでいた。





 「あ〜あ、終業式とか、唯一の楽しみは薔さまなのに、拝めなかったよ〜。」
 「ほんと〜。」

 帰ろうとしている女子生徒たちは、残念そうに零す。


 「でも、」

 そして彼女たちは、ひどく心配そうに述べた。


 「三咲さん、途中で倒れたけど、大丈夫かな?」











 ―――――…

 保健室のベッドで、ナナは目を覚ました。

 「三咲さん、大丈夫?」

 葛篭が心配そうに、覗き込む。

 「…わたし、どう、したん、ですか?」
 ぼんやりと尋ねるナナへ、
 「式の途中で、倒れたのよ。」
 こう言った葛篭は、ナナのあたまを撫でていた。


 「そう、ですか…、」
 深く瞳を閉じる、ナナ。

 「さっきまでね、ずっと桜葉さんが付き添っていたんだけど、醐留権先生が、“君まで倒れそうな顔してるよ”って言って、連れて行ったわ。」
 「え……?」
 だが閉じた瞳は、すぐに開かれた。




 すると葛篭は、言った。


 「血圧はとてもしっかりしてるから、貧血ではないからね。きっと、極度の寝不足が原因よ。」





 ガバッ!

 これを聞いて、ナナは勢いよく起き上がる。

 「ど、どうしたの?」

 驚いている葛篭へ、

 「ということは、ちゃんと血が、流れてるんですよね?」

 前を向いたまま、ナナは問いかける。


 「そうよ、貧血でもおかしくない状態だけど、血液は至って良好よ。」

 穏やかに葛篭が言い聞かせると、


 「……っ……!」


 ナナは、自身の肩を抱いていた。



 「どうしたの!?気分悪くなったの!?」

 葛篭が覗き込むと、

 「ちがい、ます……、」

 ただせつなく、嬉しそうに、ナナは笑っていて、

 「え?」

 葛篭は、キョトンとしたのだが、




 「よかった……!ずっと、いてくれた……!」




 振り絞るように告げると、




 「ありがとう!先生!」



 ナナは保健室を、元気よく飛び出して行ったのだった。







 「三咲さん、元気になって、ほんとによかった…!」
 葛篭はタオル地のハンカチで、涙を拭っていた。

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