第29話:Game(&Beside).26





 …――あのとき見せなかったかなしみを、いま見せたのは、なぜですか?









 ナナは激しく、動揺していた。
 こんな表情を、いままでに見たことがなかった。


 「俺はもう、おまえしか愛せねーんだよ。」

 そのまま、薔は、告げてゆきます。


 「は、花子ちゃん、は?」
 「花子は、花子として考えろ。」

 動揺のあまり、ナナはぴたりと泣きやんでいた。



 「なんでそんなこと言えるんだ?おまえは、それでいーのか?」
 掴まれた腕が、あつくなって。



 「こんなに好きなのに、なんで、そんなこと言うんだよ。」

 そこまで言った薔は、ナナにしがみついた。






 「あの、」

 話しかけようとした肩は、微かにふるえている。

 「おまえしかいねーんだよ。ずっとそばにいろよ。」

 その肩に、ナナはそっと手を置いていた。


 「おまえがいなくなったら、俺はどうやって生きればいいんだ?」

 薔はさらに、しがみつく。



 「いないとダメなんだ。おまえじゃなきゃ、ダメなんだよ。」

 そして、

 ス―――…

 彼はゆっくりと顔をあげた。
 その瞳はあまりにもうるんで、かなしみの色をしていた。






 「もう、そばには、いてくれないのか?」

 そっと伸ばしたゆびさきが、残っていた涙を拭う。

 「おまえは、俺を、愛してないのか?」

 頬をすべるゆびさきですら、微かにふるえており。



 「俺はおまえを愛していて、ずっとそばにいてほしいんだよ……、ナナ。」

 薔はとてもかなしそうに、笑った。





 「ごめ、なさい、」

 再びの涙をナナは必死でこらえて、告げる。


 「わたしも、薔さんが、大好きなんです。そばに、いたいんです…。」

 「なら、いてくれ。」


 ナナは、頬に触れている彼の手へと、そっと手を重ねた。


 「ごめんなさい、ずっと、そばにいます、愛してます、愛し、つづけます。だから、もう、そんな顔、しないで、ください……、」

 振り絞った、ナナ。


 「ナナ、」

 そんな彼女へ、薔はやさしく言い聞かせた。


 「愛してるからさよなら、なんて、できるわけねーんだ。」


 と。




 「愛しているなら、そばにいたいのは、当たり前だ。」

 ナナが重ねていた手を、薔はつよく握りしめて、


 「だから、そばにいろ。」


 ただやさしく、微笑んだのだった。

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