第1話:Taboo.1




「あーあ、疲れた。」

 ナナの家。その全貌はいずれ明らかにしてゆくとして――――…

 (なんなのよ、アイツ!)

 ベッドのうえに寝転がり、枕を強く抱きしめる。
 (あんなヤツがいるなら、前んとこのがまだ良かったわよ…………)
 イライラと、思い出す。

『知識が無えにもほどがあるな、お前は。』

 …………ムカッ。

 あのときの薔、ナナの思い出したその姿は、若干憎らしさと色気が増していた。

 知識なんて、お前なんかよりはるかに持っとるわ!
 ………………たぶん。


 (あー、もう、腹立つ。あんなヤツのことで腹立つなんて、余計に腹立つ。)

 でも、待って。
 腹が立つって感情、いつ以来だっけ――――…?

 (うーん…、思い出せない…………)
 あれやこれやと思案しているうちに、ナナは眠りに落ちた。

 「忘れたら居残り決定」、という条件つきの、宿題があったにも関わらず。







「お前ら、あれほど“忘れるな”と念を押しただろ。」
 担任は呆れていた。
 居残り決定にも関わらず、宿題を忘れた生徒はナナを含め五人もいたからだ。
「すみません………」
 とりあえずは反省の姿勢で、口々に謝る。
「先生、」
 しかしナナだけは担任を見つめ、
「わたし昨日は引っ越したばかりで、疲れてたんです。」
 そう、泣きそうな表情を作り言ったのである。
 担任はナナの香牙に、堕ちた。
「あぁ、三咲はいいぞ。仕方ないからな。」
 優しく言う担任に、
「ありがとうございま」
「おい、待て。」
 ナナが礼を述べ終わる一歩手前で、それを遮った者がいた。
 もちろん、
 (暮中、またお前か!)
 およそ生き物には思えない噂をもつ、“暮中 薔”である。

「吉川(※担任教師の名字)、お前はムダにも教師だが、んなこと言っていーのか?責任感がねぇにもほどがあるぞ。」


 先生にもタメ口ですか――――――っ!?


「いや、暮中、しかしな…………」

 先生もオドオドと、何かを言いかけたが、

「それに、」

 それすらも遮り、薔は言った。

「他のボンクラどもの親に訴えられたら、逆に裁判沙汰になるが?」

 ………他のボンクラどもとまで、言わなくても…………。

「ま、まぁ…………」
 担任は冷や汗をかいていた。

「よって、ソイツにも居残りさせろ。」


 担任にまで命令口調で、薔は押し切った。

 だ・が、

「大丈夫です……。うちの親は(たぶん)訴えませんから…………。」

「ぼくも、です…………。」

 なんと、当の“他のボンクラども”が、ナナをかばった。

 これを受け、担任も、

「そ、そうだぞ!暮中!お前が真面目なのは、よ〜くわかった!だがな、お前は、カタブツ過ぎるぞ(※ホントに!?)!頭冷やせ、な?」
 なだめるように言ったのだ。


 (フフン、ざまぁ見なさい。)
 ナナは、勝利を確信した。
 ところが、

「ふーん、」

 薔には、ダメージの色が微塵もない。

「なら、いっそ続けてろ。」

 そして、自身の鞄を手にとって、



「帰ってやる。ありがたく思え。」



 と言った。




「なっ………………!?」

 教室中が、絶句した。
「くくく暮中、何言ってんだ?そんなのが通用すると思っ」

「あ?キサマらよりは、やたらまともなこと言ってんぞ?」

「う………………」

 またしても、みな絶句。


「“頭冷やす時間”、必要なんじゃねーのか?」






「わ、わかった。気をつけて帰れよ?明日はちゃんと、学校来るんだぞ?」
 担任が微笑むものの、
 ガラッ―――――…
 薔は何も言わずに、教室を出ていった。

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