※第17話:Game(in Hotel).15





 気まずさに、ナナは、旅館の庭園を見てまわることにした。

 いや、しかし、

「どこへ行くんだ?」

 気づかれずに行けるわけないよ。

 びくびくぅ……………!
 ビクついて怯えるナナ。

「いや、あの、ちょっとお庭を見に………、」
「ならそれを、はやく言え。」

 …………………え?


 そう言った薔は、ナナを通り越し入り口に立った。




「なにしてんだ?行くぞ。」




 おぉ――――――――いっ!

 (わたしできることなら心臓が限界なんで、ひとりで行きたいよ!?)
 真っ赤であわてふためくナナには、お構いなしの薔だった。


 結局、ふたりで庭園を散策ですね。







 飛び石なんかもある、風情ある庭園にて。

 キョロキョロするナナのあとを、薔が歩いていた。

「なんか、見たことない植物がいっぱいですよ!」
 やたら、はしゃぐナナ。


 ふと、彼女は、池を見つけた。
 とっさに駆け寄り、
 (おぉお!これは本物の鯉だね!)
 そのなかに泳ぐ、鯉を眺める。

 あまりにも興味深く覗きすぎた彼女は、体勢をくずしてしまった。


「うわっ…………!」


 池に、落ちようとした。


 青ざめたナナは、


 グイッ―――――…


 うしろから勢いよく、抱き寄せられていた。



「危ねぇな、」



 耳もとで、薔の声がする。




 彼女は、すでにだが、池ではなくて彼に堕ちた。








 このあと、ナナがあまりにも危なっかしいため、薔は彼女の手をひいて歩いていた。

 なんなんだか、結果的にナナは、景色をあまり見ることもなく、真っ赤になってうつむいていた。

 散策どころではなかった。




 こうしてふたりは、たぶんロマンチックな雰囲気を醸し出して、部屋へと戻っていった。






 部屋の近くの廊下にある大きな生け花に気づき、真剣に眺めるナナ。
 生け花なら落ちることはないし、薔は先に部屋へと入ってしまった。

 (おぉお!キレイなお花だよ!なんていうんだろう?)
 などと、ナナが花の名に思いをはせていると、



「やだぁ!ミッチーったらぁ!」
 およそ高級旅館にふさわしくないほどのバカ騒ぎで、となりの部屋から(バ)カップルが出てきた。

「だって、庭よりゆきりんが綺麗なんだよぉ。」
「もぉ〜う!」
 歯が浮くようなセリフを、平気で口にしている。

 ミッチー?ゆきりん?

 まるでギャグ漫画のやりとりに、ナナはポカンとしてそちらを見ていた。

 ちなみにこのふたりは社内恋愛で、アラサー、見たかんじは至って普通である。


「あれ?」
 ゆきりんが、ナナに気づいた。

「やだぁ!ミッチー、あたしたち見られてるよ!」
 そして、キャッキャと笑う。
「ゆきりんがかわいいし、ぼくがかっこいいからだよ。」

 ……いや、場違いなバカ騒ぎをしているからだよ。

「となりの部屋の子だねぇ。」
 この棟には二部屋しかないため、ゆきりんに推測されてしまった。
「となりは露天風呂つきなのに、ひとりなのかな?」
 ミッチーが気にすると、ゆきりんはヤキモチを妬いた。

「そんなのどうでもいいじゃん!いたとしても、あの子のことだから大した人じゃないよ!」
「それもそうだね。」

 笑う(バ)カップルは、ナナに背を向け歩き去った。




 ワナワナ…………!
 ナナは怒りに震えた。
 自分のことより、見てもいない相手を“大した人じゃない”と推測されたことに、怒髪冠を衝く。


「いつまで見てんだ?」
 このとき顔を出した薔に、
「ちょっと!タイミング遅すぎますよぉ!」
「あ?」
 ナナは走り寄り、悔やみ申し立てた。


 しかし、
「いーから、入れ。」
 べつに気にもしていない彼に、流し目で促されていた。

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