※第15話:Game(in Bed).13





 玄関のドアを開けると、ナナ宅は異様にシンとしていた。
 いつもなら、かなりの頻度で、ナナ母が演歌を聴いているはずなのだが…………


 その日常内容を知らない薔は、ナナを玄関の上がり口に座らせた。


「あとは大丈夫だな?」
「あ、はい!」
 お母さんがきっといるので問題ないと思ったナナは、頷いた。

「ちゃんと医者行けよ?」
 とまで言われたが、
「あ、大丈夫です!わたしヴァンパイアなんで、明日にはきっとよくなります!」
 素直にそう答えた。



「なら、」
 立ち上がった薔は、

「お前、明日も同じだからな?」
 と言い残して、帰ろうとした。


「はい…………?」
 え?同じって、また7時半にお迎えに来てくださるってこと?

 真っ赤でボーっとするナナのまえで、薔は下駄箱のうえを黙って見ていた。



 (あれ…………………?)
 くびを傾げる、ナナ。

「どう、なさいました……………?」
 目をぱちくりさせて尋ねると、


 ピラッ


 下駄箱のうえにあった、一枚の紙を薔は手渡した。


 いつもは、紙など置いてはない。
 でもってその紙は、裏が白いチラシであった。




 ナナがその紙に目を走らせると、

 白いほうに、


『 ナナへ

 お母さんは予感がしたので、ちょうど観たかった映画を観に行ってきます。

 お父さんは駅で待ち伏せして、うまいこと引き留めます。


 夜中には帰るから、安心してね。


      あなたの母より 』


 と、やたら達筆なペン字で書かれていた。



 「……………………、」


 ぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!?


 ナナは口を開けて、もう一度文章を読み返す。

 読み返したところで、文章の内容は変わらなかった。



 (えーっ!?お母さん、どうしたの!?予感って、なに?どんな予感がしたの!?)
 紙を握りしめ、ナナはぶるぶると震える。



「お前の母親は、変わってんな。」

 …………た、確かに。

 震えるナナを見下ろしていた薔だが、

「まぁ、いい親だな。」

 そう呟くと、


「上がるぞ。」


 ナナのとなりで靴を脱いだ。






 ナナは呆気にとられ、母の置き手紙を落とす。
 それは上がり口に舞い降り、廊下をすこし滑っていった。

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