第7話:Game(+Disease).5





 薔のマンションを出て、無言で歩くと(ナナはよく無言のうえで歩く)、少し先の角を曲がったところに、さびれた喫茶店があった。
 さびれてはいたが、植木の手入れは見事になされた喫茶店であった。





 カラン――――――…



 なかに入ると、客はほかにサラリーマン風の男性と、眠っているようにしか見えない初老の紳士しかいなかった。


「向こうに、いきましょうか?」


 女性にうながされ、ナナたちはいちばん奥の席に着く。

「なにか、頼みます?」
 そう聞かれ、ナナは勇気を出して言った。
「あの………………」
「はい?」

「すごーく甘いものが、食べたいです。」


 なにしろナナは、もうおよそ371年、甘味にありついていない。


 (ん?でも待てよ……………)


 ……さっきまで、“この上なく甘いもの”を味わっていたのは、確かだ。


 ギャオ――――――ッ!!(※プラス赤面。)


 (おおお思い出すな、わたし!ほんとうのこと言うと思い出してはいたいけど、今は思い出すな!)


「あの………………」
 ………はい?
 赤面しているナナに、女性はやさしく言った。



「クリーム・パフェとか、ここ、あるわよ?」







 ということで、ナナは387歳にして生まれてはじめて、パフェというものを頼んだ。


 しばらくして、運ばれてきたクリーム・パフェ。


 (おぉ〜!なにこれ?真っ白だよ?うえのほう!)

 クリーム・パフェだからね。


 (でもわたしヴァンパイアだから、真っ白はこころが許さないよ!んーと…………)

 おっ!!

 (このドス黒いので、真っ白を染めてしまおう!)

 と思いついて、テーブルの端にあったお醤油を手にとり、

 ドバドバァ――――…

 クリーム・パフェにかけた、ナナ。


 (なんか、うまい具合に、深い色に染まったよ!)
「………………………。」

 ナナの目の前にて、女性は無言のまま、“およそパフェ”を眺めていた。


 パクッ

 (おぉお……………!!)

 これ、めちゃくちゃ美味しいよ!?

 お醤油のかかったクリーム・パフェを、美味しくいただくナナ。
 彼女はもう長いあいだ、血液しかむさぼってこなかったので、食べ物に対する味覚は麻痺しきっていた。



 …………だれかさん聞いたら、お仕置きされるよ?絶対に。




「これ、めちゃくちゃ美味しいですね!」
 ナナがそう言いながら、“およそパフェ”をむさぼっていると、
「ウフフ。」
 女性は、上品に笑った。




「じゃあ、お話しましょうか?」
 パフェのあとに運ばれてきたホット・コーヒーに目を落としていた女性は、目線をナナに向けて、言った。







「“過去”について。」

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