03 : 口にはしないけれど 窓の外を見ると辺りは暗くなっていた。もうそんなに時間が経っていたんだ。プリント作りに熱中し過ぎていた。銀八先生は何かの書類に目を通していて時間が経っていることに気付いていないようだった。 『先生』 「んあ?」 『そろそろ帰ってもいいですか?もう外真っ暗ですよ』 「やべー、集中してて気付かなかった。送ってくから鞄持って校門のとこで待ってろ」 『え?いやいや、構わないですよ。一人で帰れますから』 「ばーか。夜にはなァ、男はみーんな狼になんだよ」 その云い方じゃ銀八先生も狼ということになる。だけど先生、気付いてないんだろうな。 『…じゃあ、お言葉に甘えます』 「おー。すぐ行っから校門にいろよー」 『はーい』 「お待たせ」 校門のところで待っていると少しして銀八先生がやって来た。いつもの白衣姿じゃなくてスーツで。しかも傍らには白いバイクがあった。 『先生バイク登校なんですか?』 「そうそう。ほら、これ着けて後ろ乗れ」 頭に少し大きいヘルメットを乗せられる。というか先生、ノーヘル…。敢えて何も云わないで先生が乗っている後ろに座った。落ちないように先生のスーツの端を掴んで。先生はそれを見て呆れたように頬を掻いた。 「お前馬鹿だろ。そんなんじゃ落ちるぞ。というか俺が振り落とす」 『故意に振り落とそうとしないで下さい!』 「ちゃんと俺の腹に腕回しとけ」 『…は、い』 これって密着、するよね。心臓の音、先生にバレないかな。おずおずと先生のお腹に腕を回した。先生の広い背中に抱き付いている形だ。 「…よーし。じゃあ行くぞー」 先生、他の女の人も後ろに乗せてるんですか?その人もこうやって先生に抱き付いてるんですか?先生の彼女に見られたら誤解されちゃいますね。というか彼女いるんですか?帰り道が長ければいいのに。そうすれば先生ともっと一緒にいれたのに。先生―――…好き、です。 聞きたいことは山程ある。だけど私と先生は終始無言だった。頬に当たる風が私の熱を冷ましてくれた。 口にはしないけれど (伝えることは出来ないけど、想うだけだったらいいよね?) [しおり/戻る] ×
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