短編 | ナノ



彼の嫉妬はペットにまで向き、そして彼女は気づかない


久々に部活が休みの日、のほほんと納豆ちんの家で過ごしていた。映画観たい、その納豆ちんの言葉によってソファに二人して腰掛け、俺は大量のお菓子を持って。
映画の内容はよくある少女漫画のようなものだ。三角関係になったり、ようやくくっついたと思ったら離れたり。そんなに大事だったら無理矢理にでも繋いどけばいいのにね?…そんなことテレビの画面を観ながら思ってもしょうがないのだけれど。
兎に角、俺は暇だった。手に持っていたお菓子ははやいペースで口の中へ消えていく。横ではぐすぐずと鼻を啜っている納豆ちんの姿。その姿に可愛いな、と思ったりした。

「…感動する?」

『う、ん。』

「泣かないでよ納豆ちん。」

『だって…、』

よしよし、と頭を撫でれば目はテレビの画面に向けたまま、更にぼろぼろと泣き出した。頬を伝って涙が下へ落ちていく。それに少し勿体ないと思って、彼女の頬を伝っていた涙を舌で掬った。

『ちょ…!むっくん!』

「しょっぱい。」

『そりゃそうだよ…!というか何やって、』

そのあとも納豆ちんは恥ずかしいのやらで顔を赤くして責めて来た。もうテレビ画面はエンドロールが流れている。
そろそろキスしてもいいかな?そう考えながら納豆ちんに顔を近づけた。煩い口は塞いじゃおう、そんな気分で。―――…だけどそれは不可能になる。一匹の犬がわんわん吠えながら部屋に入って来たことによって。

『あ、こっちおいで。』

その犬は納豆ちんが最近飼い始めた小型犬。邪魔された、と思いながら犬を抱き上げている納豆ちんを横目で見た。何だかその犬がわざと俺と納豆ちんを邪魔したようにも思えてきた。…そんなわけないけれど。

『あはは、くすぐったいよ。』

そしてあろうことかその犬は納豆ちんの頬を舌で舐めていた。さっき俺がそうしたように。
そういえばこの犬は雄だった気がする。それに気づくとどんどんその光景が憎々しく思えてくる。

『ひゃ…っ』

持っていた封を切っていないまいう棒を無意識のうちに握り締めていた。袋の中で潰れたのがわかる。
犬が、納豆ちんの唇を、舐めた。
俺しか納豆ちんにキスしちゃ駄目なのに。納豆ちんのキスは俺だけのなのに。

「納豆ちんこっち向いて、」

『なーに、むっくん?―――…ん!』

納豆ちんの唇を無理矢理塞いでやった。顔を赤くする納豆ちんに少しの優越感。
犬に嫉妬したなんて、ね?

彼の嫉妬はペットにまで向き、そして彼女は気づかない
(やっぱりこの犬鎖で繋いでおこうよ、何て言ったら怒られるだろうか。)


企画サイト『黄昏』様にて第14Q『彼と彼女のお話』に提出
2013*01*02

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