きみの知らない街で生きてる 知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。 買い物帰りにランボくんに会った。ぐずぐずと泣いているランボくんに近づくと、どうやら迷子になってしまって泣いているようだった。買ったばかりの飴玉をひとつ差し出せばすぐに涙は引っ込み、ランボくんはいつものように笑う。そのまま背中にランボくんを乗せて沢田くんの家へ向かった。 沢田くんの家に着くとランボくんは勢いよく背中をおりて家の中へ入っていく。玄関にいたリボーンくんに攻撃をしかけようとしてそして返り討ちにあい、玄関前にいた私の方へ転がってきて慌てて拾いあげた。わっと泣き出してしまったランボくんをあやすがまったく効果がなく、彼はもじゃもじゃの頭からバズーカを取り出して、そして自分に撃つ。…いつもならそうだったが照準を誤ったのか銃口は私の方を向いていた。撃たれると思ったときにはすでに遅くて、気づいたときにはすでにこの場所にいた。 お墓、だろうか。あたりを見回してみるが周りには森林しかなく、目の前には誰のものかわからないお墓。綺麗に手入れをされていて、花が色鮮やかに飾ってあった。ここはどこなのだろう。並盛にはこんな場所なかった。そもそも日本なのか。 考え込んでいたからか気づかなかった。後ろに人影があったなんて。首元にヒヤリとした鋭い刃を突きつけられ冷や汗が流れた。 「誰だ。」 その刃がいつ私の首を切るのかわからず、呼吸さえもできなかった。誰だという問いに答えて、その答えが間違っていたらと思うと私は一言も発することができなかった。相手は私の顔をゆっくりと覗き込むと驚いたように目を丸くした。私も知っている人物に驚愕する。 「…納豆か?」 『や、山本、くん…?』 そこにいたのはおそらく10年後の山本くんだった。声も低く体格も今よりもがっしりしている。山本くんは慌てて刀を納めてくれた。 「悪い!まさか納豆だと思わなくて!首怪我してないか!?」 山本くんのゴツゴツした手が私の首を慎重に確認する。傷がないことを確認すると安心した顔をして私から離れた。 「ほんとごめんな。」 『ううん、大丈夫。』 「それにしても、納豆なんかちっさくなってねえ?それに“山本くん”ってーーー…呼び方懐かしいのな。」 そうだ、山本くんは天然だった。10年後の世界でもそれは変わってないのかもしれない。というよりも10年後の私があまり成長していなくて、見分けられていない可能性も…。 『ランボくんの10年バズーカに当たっちゃって10年後の私と入れ替わったみたい。』 「ああ、それで。へえ、10年前の納豆ってこんな小さかったか。」 山本くんが私の頭をぐりぐりと撫でる。乱れてしまった髪を手で整えていると山本くんが横で笑った。大人になっているけれど、その笑顔は10年前のままだ。 『山本くんは大きくなったね。大人になった。』 「はは、そうかあ?」 『うん、そうだよ。身長も伸びたね。すごく大人になってる。…気になってたんだけど、山本くん私のこと名前で呼んでるんだね?』 現代の山本くんは私のことを名字で呼んでいた。それにさっき“山本くん”という呼び方が懐かしいと彼は言っていた。ということは10年後の私もまた彼のことを名前で呼んでいたのだろう。 「あー、まあ、な。」 『ここはどこなの?』 「ここは並盛だぜ。」 『え!並盛?並盛にこんなところあったっけ?』 「10年経ってるから多少変わったところもあるさ。」 『私このお墓の前にいたんだけど、これはーーー』 「納豆。」 言葉を遮られた私は首をかしげる。未来のことはあまり知らない方がいい、山本くんはそう言って私の右頬を自分の左手で撫でた。彼の目が優しく、だけどつらそうに細められる。はじめて見た山本くんの表情に心臓がはねる。 「10年前のお前に、会えてよかった。」 『それって、どういう、』 山本くんの口が言葉をつむぐ。しかし彼の言葉を聞きとる前に私の視界は白い煙に包まれた。 見慣れた景色に10年前に戻ってきたんだと感じた。ランボくんはすでにいなくなっていた。数秒立ったまま惚ける。ハッと意識が戻ってから、帰ろうと足を進めた。 まだ温かさが残っている先ほどまで山本くんが触れていた右頬を押さえる。10年後の山本くんの目がなぜか忘れられない。どんな未来が待っているのかはわからないけれど、もう一度10年後の山本くんに会いたいと思った。 暖かで優しい感情を貴方が教えてくれた。 きみの知らない街で生きる title//草臥れた愛で良ければ 2023*04*04 診断メーカー・こんなお話いかがですか より 「知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる」ではじまり 「暖かで優しい感情を貴方が教えてくれた」で終わるお話 [しおり/戻る] ×
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