嗚呼、早く帰って来たらいいのに 黄瀬の髪を撫でる。さらさらと髪の毛が絡まることなく指の間を流れる。気持ち良さそうに彼は静かに目を閉じた。本当に犬に似ていると思った。 『気持ちいい?』 その問いに彼は目を瞑ったまま首を縦に振った。 『ふは、そっか。金髪だからゴールデンレトリバー?ダックスフンドかな?犬撫でてるみたい。』 「えー、犬って。それに俺そこまで短足じゃない。」 唇を尖らせて抗議する黄瀬を見て笑う。少し激しく髪を撫でる。彼の髪が乱れた。 「いたたた!痛いっスよ、納豆っち!」 『ふふ、ごめん。』 「絶対髪乱れてる…。これから撮影あるのに、」 『ごめんごめん。直してあげる。おいで。』 彼の髪を丁寧に指ですいていく。黄色のさらさらの髪が少し羨ましいと思ったり。枝毛なんて一本もないのかな。 『今日の撮影はどんなの撮るの?』 「新曲のプロモーションビデオらしいっス。恋愛がテーマの。」 『ふーん。』 「嫉妬したんスか?」 『ないかな。』 「即答!?」 右ポケットからオレンジ色の髪止めを取り出して黄瀬の前髪に素早くつける。彼は見事に気づいていないようで涙目で私を見つめる。 『ふは、嘘嘘。ちょっとだけ、ね。まあ黄瀬を信頼してるからあんまり嫉妬とかしないかな。』 「う、嬉しい…っス。」 『顔、赤くなってる。』 「納豆っちが嬉しいこと言うから、」 『ほら、髪直ったよ。うん、いつも通りのイケメンになったね。』 「ほんと?俺イケメン?」 『うんうん、イケメンイケメン。…それより撮影の時間大丈夫?』 「うわ、やば!行って来るっス!」 『いってらっしゃい。』 黄瀬は変わらず前髪に気付いていない。そのままの髪で行ってしまった彼に笑いが込み上げて来る。彼はいつ気づくんだろうか。きっと撮影現場で笑われているんじゃないだろうか。 『ふふ…。』 それに赤面してるだろう黄瀬を思うと笑いが止まらない。 嗚呼、早く帰って来たらいいのに (ちょ、納豆っちあのゴム何!?) (お帰り、黄瀬。ただいまも言わずにいきなり何?) (スタッフのみんなに笑われたんスよー?絶対納豆っちの仕業でしょ?) (くく、) [しおり/戻る] ×
|