不死の姫








生クリームとアイスとフルーツとチョコレートソースと、甘いものをたっぷり詰め込んだ大きなクレープをぺろりと完食して、トガは満足そうに頬をゆるめる。そんなトガの笑顔につられるように微笑んだ千歳は、イチゴ味のジェラートの最後の一口をちょっぴり惜しみながら食べ終えた。

「さてヒミコちゃん、まだ行きたいところある?」

「あ!私さっきのアクセサリーショップに行きたいです!」

お店の前にカァイイのがありました!とうきうきと立ち上がるトガに続いて、千歳もベンチから腰をあげる。すでに購入している大量のショップバックを二人で手分けして持ち上げると、アーケードの少し先にあるアクセサリーショップへと向かった。



ヒミコちゃん、今度お買い物デートに行きましょう?なんて千歳から声がかかったのは数日前の事で、良いですね行きたいです!絶対二人だけで行きましょう!みんなにはナイショですよ!とその日から今日を心待ちにしていたらしいトガは、今朝千歳の手を引いて意気揚々と出かける背中を、マグネやコンプレスにこっそり見送られていたことにも気づいていなかった。

アジトから少し足を伸ばせば、アパレルショップや雑貨屋などが多く立ち並ぶアーケード街があって、そこをもう何周しただろうかというほどに歩き回った二人は、アクセサリーショップでお揃いのイヤリングを買ったあたりで時計台を見上げて、そろそろ帰らねばと顔を見合わせた。

「たくさん買っちゃったわね」

「はい。とっても楽しかったです」

両手いっぱいの荷物を抱えて、足は歩き回って棒のようになっているのを今更ながら自覚して、だけど、そんなことでは全然ネガティブにならないくらいには、トガは今日を目一杯楽しんでいた。荷物を無理矢理右手で持って、左手は千歳の手をゆらゆらと揺らしながら歩く帰路にすらそわそわしていたトガは、前方にゆらりと見えるひょろひょろとした人影がまっすぐこちらへ向かってくるのを見て、むすりと頬を膨らませた。


「あら、弔くんもお出かけ?」

「は?そんなわけないだろ」

「…弔くんってば、どうせ千歳さんがアジトに居ないから、寂しくなって迎えに来たんですよ」

私と千歳さんのデートの邪魔しないでください。とむくれるトガをうるさいと一蹴して、死柄木は千歳の持つ荷物をひったくるように奪う。小指が触れないようにだけ注意してそれを左手に持つと、さっさと帰るぞとくるりと踵を返した。

「ほら、弔くん否定しないです」

「ふふ、ほんとね。かわいいんだから」

くすりと死柄木の背中を見て笑った千歳は、自身の両手が空いたのでトガの荷物を少し預かる。それから、今度は自分からトガの手を取ってゆらゆらとゆらすと、また今度行きましょうね。とこっそり耳打ちするので、トガはハイっと返事をして、足取り軽く死柄木の後を追った。




―――――――




「弔くん!これ開けてみて」

アジトに帰りついて、一番に死柄木の手からブラウンの紙袋を回収した千歳は、そこから同じ色の箱を取り出して死柄木に差し出した。怪訝な顔をしながらも、箱の蓋をつまんでそっと持ち上げた死柄木は、中から姿を現した赤色に首を傾げた。

「…何だこれ」

「プレゼントよ!今日は弔くんのお誕生日だから!」

「え!?そうなんですか!?」

「俺は知ってたぜ!初耳だよ!」

近くに居たトガとトゥワイスが、千歳の発言を聞いて身を乗り出してくる。壁際に居たスピナーやコンプレスですらへぇ…とこちらの様子を窺ってくるので、がしがしと面倒くさそうに首筋をかいた死柄木は、はぁとため息とともに吐き出した。

「……違う」

「え!?」

「そうなのか!?嘘つけ!」

「つーか、俺も千歳も自分の誕生日なんざ知らないだろ」

「そうよ。だから今日が誕生日ってことに私が決めたの。今日は私と弔くんが出会った日だから」

なので今日は私の誕生日でもあるのよ!なんて胸を張る千歳をぽかんと見つめて、それから死柄木はくつくつと笑いはじめた。10年以上も昔の遠い記憶。嫌なくらい良く晴れたあの日の事を、千歳はちゃんと覚えていた。

「…そんな昔の話、よく覚えてんな」

「えぇ。私、弔くんとの思い出は、何一つ忘れるつもりなんてないもの」

ふふんと得意気に鼻を鳴らした千歳は、箱から赤いものを取り出してぽいぽいと詰め物を放り出すと、それをスツールに座る死柄木の足元に並べる。ボロボロだった靴を脱ぎ捨てて履いた新品の濃い赤色のスニーカーは死柄木の足にぴったりだったようで、まぁ悪くない、なんてつま先を鳴らした死柄木に、千歳は嬉しそうに飛びついた。


「よく似合うわ、弔くん」

「…どうも」

「この靴を履いて、いろんな場所へ行きましょう?もちろん、私も一緒に連れて行ってね?」

手を伸ばしてさわさわと死柄木の髪を混ぜる千歳の手を、子ども扱いするなと引っぺがした死柄木は、また背の高いスツールに座り直す。人差し指を浮かせた手で千歳の手首を掴んで彼女の身体を引き寄せると、バランスを崩して死柄木の胸に手をついた千歳の耳元でそっと告げた。

「当然だろ。千歳が俺の隣に居ないなんて許さない」

はっと死柄木の顔を見つめた千歳はまた嬉しそうに微笑んで、そんな千歳の背中に勢いよくトガが飛びついて、二人のお誕生日会!しましょう!私すごくやりたいです!なんて宣言するから、薄暗かったアジトは今日もにぎやかになった。










おめでたい日は、キミと一緒が嬉しいね