不死の姫








「千歳さぁ〜ん!」

「あらヒミコちゃん、お帰りなさい」

ただいまですー!と飛び付く彼女をよろけながらも受け止めて、千歳はぎゅうぎゅうと抱き着いて来るトガの頭を撫でる。その後ろのトゥワイスにもお帰りなさいと声をかけると、ただいま!土産だぜ!そんなモンねぇよ!と言いながら、ほわりと甘い香りのする百合の花束を差し出された。

「まぁ、綺麗ね。これ私に?」

「そうです。千歳さんに似合うと思って仁くんと摘んできました」

「ありがとう。どこに飾ろうかしら」

すん…と百合の香りを吸い込んで表情をゆるめた千歳は花束を抱えたまま戸棚を探りに行く。確かここに花瓶が…なんて扉を開けていると、思ったより高い所にそれが見つかって、よいしょ、と必死に腕を伸ばしていると、千歳より逞しい腕がそれをひょいっと持って行った。

「もう、危ないわね。高い所のものを取るときは言ってちょうだい」

「ふふ、ありがとうマグネちゃん」

まったくもう、と腰に手を当てて頬を膨らませるマグネににこりと笑って見せて、千歳は花瓶を受け取る。それに水を注いで百合を生けるだけで随分と華やかになって、テーブルの中央にそれを置いた千歳は、うっとりと手を合わせた。

「はぁ…やっぱり綺麗…。ねぇ?そろそろおやつの時間だし、せっかくだからここでみんなでお茶会しましょう?」

賛成!と手を挙げたのはトガとマグネで、女子会にちょうどいいお菓子があるわよと部屋を出て行くマグネにはしゃぎながらトガもついて行く。一人狼狽えるトゥワイスを椅子に座らせてお茶の用意をすることにした千歳は、向かったキッチンでお湯を沸かしているコンプレスを見付けて声をかけた。

「あら、圧紘くん」

「お!お嬢さん。今からお茶会なんだって?美味しい紅茶なら、ちゃんと俺が用意するから任せといて!」

ぐっとサムズアップするコンプレスは、どうやらトガとマグネにお茶会の話を聞いたらしく、せっせと茶葉やカップも用意している。
器用な彼はいつも美味しい紅茶を淹れてくれるから、じゃあ今回もお言葉に甘えるわねとぽんとその背を叩いた千歳は、スキップしそうな軽い足取りで部屋に戻っていった。



――――――



「………んだこれ…」

アジトに帰還した荼毘は扉を開けた途端に、薄暗い建物に似つかわしくない紅茶の香りが部屋いっぱいに充満しているのを感じて眉間にシワを寄せた。室内のダイニングテーブルにはその紅茶の入ったカップが並び、中央の大皿にはお茶請けなのかクッキーが盛られている。
それをひょいっとつまんだトガはぱくんと幸せそうに噛り付いて、その隣のマグネはソーサーごと持ち上げたカップから紅茶の香りを吸い込んでうっとりしているし、居心地悪そうに華奢な椅子に座るスピナーは、千歳に口の中にクッキーを突っ込まれて驚いた後にうま…と何やら感激しているし、両手にクッキーを確保したトゥワイスは、いつものように一人で美味い美味くないと言いながらむしゃむしゃと頬張っている。いや美味いんじゃねぇかと思った荼毘の心の声は、窓際で紅茶を飲んでいたコンプレスが代弁してくれた。


「あ!荼毘くんおかえりなさい!」

「…一体なにやってんだ?」

「あら、見てわかるでしょう?女子会よ!」

荼毘を出迎えて胸を張って言い切る千歳に、いや女子率低すぎるだろとは言わないでおいた。ふぅんと適当な相槌をうった荼毘の手を引いた千歳は、荼毘くんも一緒にお茶しましょ。とテーブルの前まで引っ張ってきて、自分が座っていた椅子に座らせる。

「紅茶にお砂糖とミルク入れる?」

「…いや、」

「ストレートね!わかったわ!」

紅茶も要らねぇんだけど、と出かけた言葉は、千歳の満面の笑みを見て引っ込んだ。うきうきと紅茶を注ぐ彼女を眺めながら、まぁ少しくらい付き合ってやるのも悪くはないか…と半分諦めながら思った荼毘は、受け取ったカップを少し眺めてから口をつけた。…紅茶とは、こんなに甘ったるいものだっただろうか。



――――――



「あ、そろそろだわ」

そう言って千歳が席を立ったのは、2杯目の紅茶を半分ほど飲んだ辺りだった。かちゃかちゃと新しいカップと小皿を用意した千歳はお皿の上にいくつかクッキーを選んで並べると、ティーポットカバーの下で保温されていたまだ温かい紅茶をカップに注いでミルクを少し入れる。
首を傾げながらその様子を見ていたトガ、トゥワイス、スピナーにコンプレスはハハ、と苦笑して、少し眉間にシワを寄せた荼毘は、ご馳走さんと言ってそそくさと席を立とうとした。

「あらあら、今さら逃げようとしたって手遅れよ」

「あ?」

「ほら、」

「おはよう弔くん!」

マグネがちょいっとカップを持つ手の小指で示した方を見ると、かちゃ…と開きかけた扉を勢い良く全開にした千歳が、その向こうに居た死柄木の手を引いて部屋に招き入れるところで、荼毘は浮きかけた腰をすとんと落とす。…全員大集合じゃねぇか仲良しかよ。


「弔くんよく眠れた?お腹すいてない?」

「………あぁ、」

「圧紘くんが美味しい紅茶を淹れてくれたの。はいどうぞ」

カフェタイムを過ぎる時間にようやく目が覚めてきたらしい死柄木は、千歳の問いに少し間を空けて答えながら、差し出されたクッキーにのっそりと手を伸ばす。
もそもそと咀嚼して紅茶に口をつける死柄木の様子をにこにこと眺めていた千歳は、どう?美味しい?と首を傾げながら死柄木の顔を覗き込む。それに…ん、とだけ返した返事を肯定と勝手にとらえた千歳は、ふふふと満足そうに笑って自分のカップに口をつけた。








そんな、とある1日