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昨日の彼の様子が気になり、結局帰らないまま沢田家の外壁にもたれ朝を迎えた。
ひんやりとした夜の空気の中、黙々と彼とした時のことを考えていた。
セックスの最中絶えず喘ぎ声を漏らしていたので沢田も気持ちがいいのだろうと思っていたが、実は痛かったのだろうか。
まああんな所にこんなものを挿れるのだ、よく考えれば痛くない筈はない。
それならば言えばいいのに。
あの状況で止める事は出来なかったかも知れないが、それでも少しは良くなる方法も考えてやれただろう。
僕だって彼が初めてなんだから、早々勝手は判らないのだ。
それに・・・確かに彼の中は気持ちがよかったが、それだけなら自慰でだって治める事は出来る。
僕の手で、僕のモノで沢田が気持ちよくなっていると思うからこそ、堪らなくなる感じると言うのに。
沢田が気持ちよくなれなくては、意味がないのに。

朝、家から出てきた沢田の腕を掴んだままずんずんと学校への道のりを早足に歩き、応接室まで引きずっていった。
正直、怒りを感じている。
蜜月の筈なのに、あんな顔を見せる沢田にも、
あんな顔しかさせられない僕自身にも。

応接室の扉を乱暴に閉め、沢田の背を壁に押し付けた。
「ねえ、僕に言いたいことがあるんでしょ?さっさと言いなよ」
沢田は僕の事を見つめていたが、何も言おうとしない。
その怯えたような表情にイラつきが増した。
「嫌だったんでしょ、するの。だったら何ではっきり言わないの」
「い、嫌じゃないです!ただ・・・」
「ただ?」
それきり沢田はまた俯いて黙り込んでしまった。
ふつ、と何かが切れた音がした。
「君のそういうはっきりしない所、訳判んない。」
びくり、と肩が震えたのが分かったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
「君親子じゃなくて夫婦が良かったんでしょ?君のイメージしてる夫婦って、こんな風に言いたいことも言えない関係なの?それじゃあ結婚なんてする意味なくない?」
厭味な言い方だとは思えど、止まらない。それに言わせているのは沢田の方だ。
「・・・ヒバリさんだって・・・」
突然ぼそりと低い声で呟いた沢田は、顔を上げ僕をきっと睨みつけた。
思わず怯んでしまったのはその大きな瞳からぽろぽろと涙が零れていたからだ。
「ヒバリさんだって、訳判んない!俺のこと振り回して何が楽しいんですか!ヒバリさんホモな訳じゃないんでしょ!」
「はあ!?何言ってるのそんな訳ないでしょ!」
「だって顔見るたびに挿れたい挿れたいってばっかり!」
「しょうがないでしょ、僕だって男なんだから!だいたい好きな子の奥に触れていたいって思うのの何が悪い・・・
って、何!?何でよけいに泣くの!?」
さっきまでぽろぽろと零れていた沢田の涙が突然滝のように流れ出した。
一体何なんだ!!
「だ・・・だって・・・」
「何!?」
「・・・ヒバリさん、好きって言った・・・」
「・・・・・・」
ひっくひっくとしゃくりあげて泣き続ける沢田の姿に、絶句する。
・・・ああそう言えば、僕から好きだなんて言った事なかったっけ・・・。
・・・って、まさか、そんなことで悩んでたりした・・・?


・・・・・・・・・。


莫迦だこの子。
本当に、この僕がこれほど行動で示しているというのに、何でそんなこと悩んだりするんだ。
莫迦だ莫迦だとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった。
あまりの事に呆れ返ってはあっと溜息をつき、眉を寄せたまま沢田を見やる。

「・・・好きだよ」

僕はそう呟くと、泣きじゃくる沢田の背に腕を回しそっと抱きしめた。
言わなければ判らないのなら、言ってやる。
何度でも。
「好きだ・・・好き・・・君が、好きだ・・・」
耳元で何度も囁くと、沢田はその腕を僕の背中に廻しきゅっとしがみついた。
それに応えるように、僕も更に強く抱きしめる。

全く、本当に。

莫迦な子ほど可愛いとは、よく言ったものだ。


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