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血が止まりそうなくらい強い力で腕を掴まれ、連れて行かれた先は並盛公園だった。
もうだいぶ暗くなってきたと言うのにまだ小さな子供が数人残っている。母親の「もう帰るよ!」なんて言葉が聞こえているのかいないのか。
ヒバリさんは滑り台のところまで来ると急に立ち止まった。その拍子に掴む力が緩んだので、俺はチャンスとばかりに彼の手を振り払った。
「な・・・何なんですか」
掴まれていた手の親指の付け根辺りが赤くなっている。この馬鹿力。左手がジンジンしている。
・・・痺れが引かないのは、馬鹿力のせいばかりではないのかも知れないけど。
「何で、山本の前であんなことするんですか」
ヒバリさんは、怒りを訴える俺の顔を涼しげな表情で一瞥したけれど、すぐにぷいっとそっぽを向いてしまった。
「あの男が、人のものにちょっかいを出そうとするからだ」
「人のものって何!?俺の意思は!?俺、ファーストキスだったのに!」
「ファーストキスじゃないよ」
「ファーストキスです!」
「・・・別にいいでしょ。相手僕なんだから」
「よくないです!あんな時ばっかり!」
「何怒って「二人きりの時は何もしないくせに!!」
しん、と沈黙が走って我に帰った。
あ・・・あれ?俺何言っちゃってんの?そういう事が言いたいんじゃなくて、あんな人前で見せ付けるみたいのが嫌ってだけで・・・ああほら、ヒバリさん目が点になってる!
「あ、いえ、そういうことではなくて、ですね・・・んむう!?」
慌てて言い訳をしようとする俺の顔をヒバリさんはまた物凄い力で押さえつけ、有無を言わさず唇を押し当てた。
あ、セカンドキス・・・なんてロマンチックなもんじゃない。なんか唇ごと喰われそうだ。
びっくりして目を白黒させているうちにヒバリさんの舌は強引に唇をこじ開け、俺の口内に侵入してきた。
その舌はまさにヒバリさんそのもので、攻撃的で容赦なかった。
俺は息をするのもままならないし、唾液は処理できずに溢れかえって首もとまで流れてきている。
そういえば幼稚園の頃隣の家の大型犬に顔中嘗め回されてよだれまみれにされたことがあったなあ・・・。混乱する頭の片隅でそんなことを・・・を・・・!?
「んっんんーーーーっ!!!」
不穏な空気に飛んでいた意識が戻り、慌ててじたばたと暴れたが、ヒバリさんの腕は俺の背中にがっちりと回され、逃れることが出来ない。
とりあえず首の力を振り絞って顔だけを背けると、キュポン、と音がして唇が離れた。
「な・・・何してるんですか!?」
「何ってキス」
「じゃなくてこの手!!!」
いつの間にかヒバリさんは左手で俺を抱きこみながら、右手で・・・シャツのボタンをすべて外し、俺の乳首を弄り始めていた。
ヒバリさんは抵抗する俺を馬鹿力で更に押さえつけ、上半身を撫で回しながら俺の耳元に顔を寄せた。
「ここなら二人きりだから・・・えっちしよう?」



えええええええええっ!!!

「なにいって!!いや、二人きりじゃないです!ほらあそこに子供たちがたくさん・・・いえ一人だけどいます!」
遠くの方に幼児の手を引いて慌てて帰ろうとする母親たちの姿。
一人とり残された小学校高学年くらいの男の子はこちらを見ながら完全に固まっている。
ヒバリさんはその少年をちらりと見ただけで、すぐに俺の顔に視線を戻した。
「あれ、君の知り合い?」
「え?いや、違いますが・・・」
「じゃあいいじゃない」
え・・・いいのか?
いや確かに手を繋いで帰りたいとかって、俺も道行く人の目はあんまり気にしていなかったのかも知れないけど、で、でもそれって違うよね?え、同じことなの?
頭の中でぐるぐる考えているうちに、ヒバリさんはいつの間にか片手で器用に俺のベルトとズボンの前ボタンを外し、パンツの中に右手を差し込んできた。
う・・・うわあああ!さわられたああ!
「ヒ・・・ヒバリさん!」
「何」
「おれっ!ヒバリさん以外に裸見せたくありません!!!」
そういう問題か!と頭の中で一人突っ込みをした途端、ヒバリさんがぴたりと動きを止めた。
「・・・しょうがないね」
え。そこしょうがないんだ。
死ぬ気のときほとんど裸じゃないかとか、そういう突っ込み入るかと思ったんだけど・・・。
いやでも、折角納得してくれたんだし!
こくこくと首を縦に振り続ける俺を見てヒバリさんはちょっと口を尖らせたが、俺を抱く腕を離して乱れた制服を調えてくれた。
もしかしなくても俺、ぎりぎりセーフ・・・だよね。
ヒバリさんはネクタイまで綺麗に直し終ると、ほおっと溜息をつく俺の額にちゅ・・・と音を立ててキスをした。
「じゃあ、また、二人きりの時に・・・ね?」
耳元に囁きかけるやたら色っぽい声に、安堵に緩み始めた俺の顔は、また血の気を失っていったのだった・・・。

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