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沢田にキスが出来ない。


いや、正確に言えば「起きている沢田にキスが出来ない」だ。
彼が寝入ってからする「お休みのキス」は今だ続行しているため問題はない。
が、しかし、仮にも恋人になった今、起きている間にだって「おはようのキス」や「行ってきますのキス」や「いただきますのキス」や「お帰りのキス」や寝る前の「お休みのキス」位してもいいのではないだろうか。
なのに。
折角僕が一緒に登校しようと家の外で待ち伏せていたと言うのに、待てど暮らせど彼は来ない。
始業開始時刻を過ぎた頃、ようやく出てきたかと思い声をかければ、突然慌ただしく身なりを整えだした。
いつもいつも着崩れているくせに何を今更、だ。
おかげで僕はキスをするタイミングを失ってしまった。
おまけに学校に付いた途端さっさと教室に入ろうとするから「行ってきますのキス」をしようとしたら拒まれた。
付き合えといったのは彼のほうなのに。
僕を好きだと言ったのは、昨日のことなのに。
しかも、仕方なく応接室に戻ろうとした時、彼の髪に付いた木の葉が目に付いたので取ってやると、真っ赤になって異常なほど動揺し始めた。
もう何がなんだか訳が分からない。
もしかしたら、「付き合う」の中にはそういった甘い雰囲気は含まれていないのだろうか。
確かに彼の外見はやたら子供っぽいとは思うし(下手をすれば小学生に見えなくもない)、いかにも何も知らなそうな感じではある。
自慰の時に思い浮かべる妄想の彼は、とろんとした瞳にうっすらと涙を浮かべてひどく色っぽいのだが。

・・・しまった、想像したら疼いて来てしまった。
全く彼は、どれだけ僕に我慢させようと言うのだろう?

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