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あれから一週間が過ぎた。
ヒバリさんはあの日から毎朝俺を迎えに来てくれて(結婚宣言の次の日も、遅刻したからと言う理由だけではなかったらしい)、放課後は応接室でヒバリさんの仕事が終わるのを待って一緒に帰る。

・・・これだけ聞いたら、いかにも”ラブラブ”だ。

チラッと、隣に歩くヒバリさんの顔を盗み見る。
真っ直ぐ前を見る、涼やかな顔。くそう、かっこいい。
薄暗い夕暮れの中、今日も俺達は肩を並べて一緒に帰る。ただ、それだけ。
正直、十四年間彼女なしの俺にはよく判らないが、何かこう・・・イメージと違うと言うか・・・。
ヒバリさんらしいといえばヒバリさんらしいし、にこやかなヒバリさんなんて想像もつかないのだけれど、でも。
この会話のなさは、何とかならないのだろうか。
ヒバリさんは、何しろ喋らない人だった。
俺が何か話しかけても短く相槌を打つくらいで、会話になどなりはしない。
とはいえ、俺も俺で何を話しかけてよいやら判らず、天気の話とかほんとにつまらないことばかりで。
獄寺くんや山本とは何を話していたんだっけ?
確か今日は・・・この前の小テストが赤点だった話とか、昨日のテレビでお笑いタレントが寒中水泳をしながら巨大かき氷の早食い・・・いや、無理だろ、ヒバリさんとそんな話!
ヒバリさんとの会話・・・イメージで言うと、政治の話とか経済の話とか。そういえばこの前机の上に乗っていた本はどふとえふすきいだった。
・・・きっとヒバリさんが乗ってくるような話をするには、俺の頭はアホ過ぎるのだ。
戻した視線を、もう一度隣に歩く人に向ける。今度は、少し下の方。
少し骨の浮いた、細くて長い指。
触れた事のないそこは、暖かいのだろうか冷たいのだろうか。
「・・・何」
突然声をかけられて肩がびくっと震えた。
視線を上げれば、ヒバリさんが訝しげに俺を見ている。
あれ、俺今、どんだけヒバリさんの手を見つめてた?なんか視線、変態っぽくなかった?
「な、何でも!」
「・・・そう」
ヒバリさんはそっけなくそう呟くと、また視線を前に向けてしまった。

・・・何でも無くないです。
俺、ヒバリさんと手、繋ぎたいです。
もっともっと、ヒバリさんの声聞きたいです。
あと半歩だけ・・・近くで、歩きたいです。

そんな事言える訳無くて、俺は俯いて喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

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