ぼんやりと窓の外を眺めていたら、ごつんと頭に拳骨を落とされた。
「ふぎゃっ、痛い!!」
思わず恨みがましげに見上げたら、怖い顔をしたヒバリさんに逆に睨まれてしまった。
「外眺めている時間あるの?終わらないと放課後も居残りだよ」
「ごっごめんなさい!でも分からなくて…それでつい」
「分からない所はすぐ聞けっていってるだろ」
「うう…すいません」
分からないところだらけなんです。むしろ全部分からないんです…などと言ったら更に殴られそうなのでぐっと我慢する。

「あのね、きみが頭弱いのは知ってるから。どうせほとんど分からないんだろ?」
「………はい、その通りです…」
「並高行きたいんだろ。だったらちゃんと分からないことは分からないって言いな」
そう言ったあと、ヒバリさんは一つ一つの問題を丁寧に教えてくれた。
それでもオレが微妙な顔をしたのがわかったのか、最初からまたゆっくりと繰り返してくれる。

正直この人がこんなに辛抱強いと思っていなかった。
オレの面倒なんか、すぐ放り出すと思っていたのに。





事の起こりは、オレが無謀な進路予定を提出したことだ。

あまりにも自分の学力とかけ離れた進路を希望すると、当然のことながら学校教師に却下される。
100%落ちると分かっている高校を受験させてくれるほど、教師も暇では無いのだ。
「あのな、沢田。まだ2年だとはいってもな、お前のこの学力では並高はとてもとても…。悪いことは言わんからこっちの私立高校にしておけ。なっ」
「でも先生!今から死ぬ気でがんばれば不可能じゃないと思うんです!」
「いや無理だから。先生だってこんな事言いたくないけどな、この前の小テストもほとんど一桁台だっただろ」
「それはそうなんですけど!でもオレも引くに引けない理由があるんです!!」


――並高に合格できなきゃイタリアに連れて行く。それとも中卒で働きにでもでてみるか?


つぶらな瞳で情け容赦のない事を告げてきた、家庭教師の姿が脳裏に浮かぶ。

「お願いです先生!希望出すだけでもなんとか!」
この時期の進路希望で並高を主張しておかなければ、直前になって騒いでもスルーされてしまう確立大だ。
出せなければ確実にオレは中卒のまま工場づとめか、イタリアでマフィアのボスかの2択を迫られてしまう。

はぁー。先生は大きなため息をついてこめかみを押さえた。
「まぁお前がそこまで食い下がるなら、自分で交渉してみるか?」
「…へ?自分で交渉?」
「最終的にこの書類が通るかどうかは、風紀の管轄になるからな。自分で風紀委員長のところにいって直談判してこい」
「…えぇ?なんでふーき……」
「『馬鹿すぎる生徒を野に放つのは風紀の乱れ』だったかなあ?先生も詳しく覚えて無いけど、とりあえず本気で受験したいなら応接室に行ってきなさい」
はい、と書類を渡されてオレは固まった。
のっぴきならない状況に追い込まれたというのは、正にこのことなんだろう。



「へえ、身の程知らずな進路希望出してる生徒がいるって聞いてたけど、きみだったんだ。」
眠そうな声で言われて、びくっと身体が竦んだ。
「は…はい。なんかもう、お昼寝の邪魔して、す、すいません」
「いいけどね、別に。」
ふわぁ、と大きなあくびをされて、またびくっと身体が反応した。
…こ、こわい。いきなりトンファーが出てきたらどうしよう。

「本当に並高行きたいの?」
「は、はい!行きたいです!行かないとリボーンのやつにオレの将来めちゃめちゃにされるんです!」
「ふぅん、赤ん坊にねえ。」
はふ、とまたあくびをかみ殺したヒバリさんは、うるりと濡れたような瞳をオレに向けてきた。

「じゃあ今度から昼休みはここで過ごして。それでも足りなければ放課後も居残りさせるから」
「……は?」
「何?早いほうがいいなら朝の授業が始まる前にきてもいいけど。きみ、どうせ朝起きれないでしょ」
「………は、はい?」
ぐるぐる。
言われていることがわからなくて、オレの思考回路は空転するばかりだ。

「だからここで。並高受けれるレベルになるまで、応接室で勉強しろって言ってるんだよ」
「……ぇええええーっ!?」
「なに、嫌なの?」
僅かに眉を顰められて、オレは慌てて両手をぶんぶん振り回した。
「いえっ、いやっていうか、べ、べべべべ勉強はリボーンが家庭教師をですね…!」
「だからそれじゃ足りないからこんな成績なんでしょ。ここで僕が直々に見張るから。」


「おーなかなか良い案だなそれは。しっかり監督してもらえ、ツナ。」
突如ズボっと天井に穴があいて、リボーンが逆さま状態で顔を出した。
「うわあああっ、いきなりびっくりさせるなよリボーン!」
「このアホをよろしく頼むぞヒバリ。言っちゃなんだが、コイツの頭の弱さには仰天すること請け合いだぞ」
「いいよ、赤ん坊。こんな低空飛行の成績を放置してたら、並中の評判にもかかわるからね」
「お礼といっちゃーなんだが、ママンに頼んで弁当作ってもらうから楽しみにしとけ」
「ワオ、それは楽しみだな。ハンバーグ入れてもらってね」
オレを無視して、勝手に話がまとまってるーっ!




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