prologue




 「お前は、いらない子なんだよ」

 兄が底の見えない沼のような真っ黒な目で私を見れば、途端に狭くて小さな部屋の隅に追いやられているような気分になる。天井がみるみるうちに近づいて、心が押しつぶされてしまいそうな気分だった。

「でも、俺も同じだよ。お前が後継者になれないように、俺だっていくら努力して足掻いても無駄だからね。だから俺達は同じだ、お前は俺なしじゃ生きられないし、俺にもお前が必要なんだよ」

 何を言ってるのかまるで理解ができない。もうそれ以上何も言わないで欲しい。恐ろしくて、恐ろしくて堪らないんだ。誰か助けてくれ、と頭を抱えた時兄の声が聞こえなくなった。瞑っていた目を微かに開けてみれば足元で何かを踏んづけているのが見えた。

「ヒッ」

 死体だ。魚のように表情のない死体、一つじゃない。死体が積み重なって山になった頂上にいたのだ。腐爛した死体には蛆が湧き、青バエが飛び回っている、堪らなく臭い。胃液が迫り上がって足元に吐き出せば、顔が熱くなっていた。咄嗟に口元を押さえつけていた手が真っ赤に染まっていて、それが自分の血ではない事は明らかだった。手だけじゃない、素足も、服も、血のシャワーを浴びたかのように真っ赤だ。

 殺したのは、ワタシだ

 腹の底から一気に喉元に突き上げてくる絶叫。喉も、頭も、心も、全てが痛かった。苦しかった。



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