守ってあげるからね
※ゴンの双子 ヤンデレ
小さい頃からゴンが嫌いだった。少し先に生まれたぐらいで兄面をして私を庇おうとするし、好奇心の塊だし、無神経なのかと思いきや気遣いのできる優しさを持つ所とか価値観とか、曇りのない瞳で物事を判断する所とか、私にはないものを全部持っていた。虫が大の苦手で背中に飛び付いてきた小さなバッタを「早く殺してよ」と泣き叫ぶ私とは正反対にゴンは「大袈裟だなあ、害はないんだよ」と全ての生き物を慈しんでいた。ゴンがいると私の汚くて暗い闇が広がっていく。どんなことにも前向きで笑顔を絶やさないゴンが不快で堪らなかったのだ。
だからある日父親を探すと実際どうでもいい理由をつけて家を飛び出して、ゴンから離れたのに、ゴンはニコニコと無邪気な顔で嬉しそうに私の前に立っている。一体どうして私がここにいると分かったのだろうか、偶然だろうか、父と同じハンターライセンスを取ったんだよとか、ミトさんの所にたまには帰ってるの?だとかくだらない事ばかりぺちゃくちゃと一方的に喋っている。
そして後からだるそうにやってきた、生意気そうな銀髪の男の子は私を見据えると「だれ、このチビ」と失礼なことを言ってみせた。チビはお前もだろうがこの野郎と、口走りそうになったがゴンの親友だというこのガキ、キルアは疑い深そうな奴だと気づいて黙っていた。
「俺の双子の妹だよ」
「妹ぉ?!ぜんっぜんにてねーじゃんか!」
「二卵性だからね」
似てないのは唯一の救いだ。もうゴンと比べられるのなんてまっぴらごめんなんだ。
「暫く一緒にいようよ!」
「嫌だよ、仕事あるもん」
「えー!今何してるの?」
「ひみつ」
きっと私がしている所業を聞いたらゴンは顔を真っ赤にさせて激怒するだろう。
普段滅多な事では怒らない、へらへらと呑気に笑っている彼が頬を紅潮させて憤怒の色に瞳を染めたのは小さい頃に一度きり。夜中に家を抜け出して船で島にやってきた男と会っていた時だ。男がロリコンだったとしても、別に何もされなかった。しかしゴンはあっという間に私を探し出して男ではなく、私の頬に平手打ちをかました。あの時のゴンの表情は信じられないくらい真っ直ぐな怒りを表していたのだ。「こんな夜中に何考えてるんだ」と険のある声で問われて何も言えなかった過去が懐かしい。
今、私が蜘蛛の一員であることを知ったら平手打ちなんかじゃ済まない。人殺しをする私を許さないだろう。
「ばいばいゴン」
久々の再会に勝手に別れを告げて彼らの前を立ち去ろうとした時、後頭部に鈍い痛みが駆け巡った。
「これでいいんだな、ゴン」
キルアの声が遠くなっていってゴンの顔はよく見えなかった。
「……一体何のつもり?」
重たい瞼を開ければそこにはゴンがやけに幸せそうに笑っていた。
「大丈夫、俺が絶対元に戻してあげるからね」
「はぁ?」
「人殺しとか盗みとかそんなこと絶対にナマエはしない。操られてるんだ」
何を馬鹿なことを言っているんだと思う前に、ゴンが私の全てを知っていたことに衝撃を受けるべきだろう。私は素顔を出して悪事を働いたことがないと言うのに、一体どこから情報を得たと言うんだ。
「だからクラピカにも頼んだんだよ、俺が絶対元に戻すから、ナマエだけは見逃してって…」
全身を鎖で縛られて身動きができない。念も何故か使えないし、さっきから頭の後ろからガンガンと定期的に鈍い痛みが流れてくるようだった。視界も朧げになっていって、気を抜いたら気を失ってしまいそうだ。
まいったな、蜘蛛の召集がかかっているというのにこれじゃあ遅刻してまた怒られる。
「一緒に頑張ろう、大丈夫、俺がついてるから」
ゴンが私の後頭部を押さえつけて、肉を押し広げるような感覚がとても気持ちが悪かった。
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