謎の女の子!


「こっ、子供!? 危ないよ!」


あわてて三人は目の前に立ちはだかる子供を止めようとする。
間に合わない、と瞬時に三人は悟った。すでに猛犬はその子供に狙いを定めていたのだ。


「にっ、逃げて……!」


雪は必死で叫ぶが、子供は一歩たりとも動かない。まるで地面に足を植え付けられたかのように。
恐怖で足がすくんで動けないのだろうと、その場にいる誰もが思ったはずだ。
その子供が、両手を前に突き出すまでは。


「……」


何かしら三人には聞き取れない声量で、子供はつぶやく。
どうやら日本語ではないらしい言葉に、未来は少しだけ怪訝そうに眉根を寄せた。
その小さな手はゆっくりと空中をなぞるように弧を描く。それはさながら、大気拳のそれのようだった。
そしてまるで何かを発射されるように、その両手は思い切り前に突き出される。


「……!」


誰もが目を見張る。それもしょうのないことだ。
今にも襲い掛かろうとしていた猛犬は、情けなさそうにきゅんきゅんと許しを請いながら宙を舞っていた。


「えぇ!?」


子供がくい、と手を動かせばまるで糸に操られているかのように猛犬はその手のほうへ舞う。
そしてついに猛犬は、玄関の戸の中へと得体のしれぬ力で押し戻される。


「す……すごい……どうなってるんだ? 手も触れないで……」


驚く暇もくれず、子供はさも当然といった手つきで玄関の扉を閉めた。
そして、くるりと振り返る。


「……すっごい……」
「僕、今普通に大人として恥ずかしいんだけど……」
「いや、うん、俺らまだ完璧な大人じゃないし……い、一応……」
「綱吉その言い訳もっと恥ずかしいからね……」
「……うん……」


申し訳なさそうに苦笑する三人を、子供はじっと見る。


「あ、あの……ありがとう、助けてくれて……」


綱吉が率先して子供にお礼を言う。が、そんな綱吉に対して、子供は眉間にしわを寄せ睨みつけた。


「え、え……? 俺、何かした?」
「おこって……るのかな?」
「……えぇ?」


だが三人の不安をよそに、イーピンは綱吉にに手を合わせてペコリとお辞儀してから、足音軽く走っていった。


「あっ……」
「あの子……さっきの子だったよね?」
「え?」


雪の発言に、二人の視線が集まる。
人差し指を口元に当てながら考える雪は、うーんと唸る。


「確かに、さっき未来の……ろうし? の屋台から出てきた子だったけど……」
「本当に? 僕全然気づかなかった……」
「俺も……まったく……」
「じゃあ老師、知ってるのかな。あとで機会があれば聞いてみよっと」


そんな未来のほとんど独り言のような言葉を聞きながら、綱吉は携帯を見た。


「……ってか早くしないと、遅刻」
「まじかー」


珍しく早めに家を出たと思えばこれだ。


***


「超能力?」
「う、うん……手を使わずに、離れたものをバンッって……」
「そんなことあるわけ……10代目! 何かと見間違えたんじゃないスかね?」
「そ、そんなことないよ!」
「っていうか僕たちも見たし。ねぇ、雪?」
「うん、私もしっかりこの目で見た。」


綱吉の後ろに立ち、言葉通り綱吉の肩を持つ未来と雪を見て獄寺は押し黙る。
誰よりも非科学的なことを嫌う彼ゆえに疑いたいものもあるのだろうが、三人にも同じことを言われてしまえばあまり強くは言えない。


「……ツナ、未来に雪」
「うわっ、リボーン!」


唐突にリボーンの声が綱吉の足元から聞こえ、綱吉は思わず後ずさる。あと少しで踏んでしまうところだった、となでおろす。


「誰でもな、そういうのを信じる年頃ってもんがあるもんだ」
「赤ん坊が言うな!」
「本当に見たんだよ、リボーン!」
「そうそう、本当になんかまるで見えない紐でも扱ってるかのように……」


未来と雪が必死になって抗議をしても、リボーンは両手を肩の横に広げ、やれやれのポーズをとって見せる。
それに見た短気な未来はむきーっと両手をあげて憤慨し、雪は返す言葉もなく苦笑してしまった。


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