逃げるも戦法


言いたいことだけを言った雲雀は、もう言うことはないというようにトンファーを取り出した。
そして少し距離があったはずの獄寺の目の前に一瞬で現れ、右手ので思い切り獄寺を殴り飛ばす。


「うがっ……!」


吹き飛ばされるように獄寺の体は未来の足元に落ちる。
「ひえっ」と思わず未来は悲鳴を上げて、これはやばいとようやくカーテンの中から出てきて獄寺に駆け寄る。


「……まずは一匹」
「お前っ……!」


あまりに唐突な攻撃に山本は声を張り上げる。


「武、下がって!」


未来の忠告は遅かった。
再び一瞬で距離を縮めた雲雀は、今度は両手のトンファーで山本を襲い始める。
後ろへ飛ぶことで何とかその攻撃を避けるが、あまりのスピードに避けるのに精一杯で反撃が一切できない。その顔に浮かんでいる笑顔がチャームポイントだったはずの山本だが、その顔には焦りの表情を浮かべている。


「動きはいいな……だけど、右手をかばってるな……」
「っ」
「そうか……野球部」
「!」
「あたりだね」


もちろん、それは図星だ。だけど素直な山本は、その答えを与えるかのように一瞬体の動きを止めてしまう。そしてその一瞬が、彼にとっての仇となった。
それを見逃すはずもない雲雀は、その隙に山本の腹部を思い切り蹴飛ばした。


「うあ!!」
「二匹……」


蹴飛ばされた山本は、そのままツナが寝ているソファーに突撃した。
その衝動で、ツナの深い眠りはついに覚めてしまった。


「ん……」
「ねぇ、未来、この人強いの?」
「出会い当初わずか一分足らずで武器弾き飛ばされた。僕にこの野獣は無理です」
「ふーん……面白そう」


ぺろりと唇を舐める雪を見て、綱吉は「ひっ」と小さく悲鳴をあげる。
しばらく寝起きのためぼーっとしてから、ようやくあたりの惨状に気づいたらしい。


「えっ、山本……? 獄寺くんまで!? どういうこと!?」
「もう一人いたか……」
「え……ふ、風紀委員長の雲雀さん?」


だがそんな彼を構う前に、気に掛けることがあった。
床に転がっている二人は先ほどからぴくりとも動いていない。


「山本ぉ! ご、獄寺君!」


綱吉は二人を揺さ振ってみるが、起きる気配がない。
そんな綱吉を冷めた目で、雲雀は見下ろす。


「起きないよ。二人にはそういう攻撃をしたからね」
「え!?」


気づけば、綱吉が手を伸ばせば届く距離に雲雀はいた。
それを見て、雪は素早く手を前にかざす。


「っ!?」


足元に目をやると、まるで地面と足を縫い付けるかのようにそこはがっちりと凍っていた。
試しに足を引っ張ってみるが、やはり地面にくっついたまま動かない。そのままバランスが崩れそうになったけど、なんとか持ち直す。
そして切れ長の瞳は、雪をとらえた。


「……君の仕業かい?」


雪は雲雀の睨みにビクともせず、笑顔で頷いた。
その瞬間、未来の中で「雪は実はつわもの」というレッテルが貼られる。よくよく考えれば、あのヴァリアーで幼少時代を過ごしたのだ。しかも暗殺部隊の一員として。


「なるほど……咬み殺す」


それだけを言うと、雲雀は力任せにトンファーで足元の氷を一息に粉々に砕いた。


「嘘ぉ、」
「あー雪危ない逃げて!」
「逃がさないよ」


カオスの中、ついにリボーンは行動を起こした。


「させねぇぞ」


それだけを言うと、レオンは変形し銃の形になる。
標準を綱吉に当て、少しもずれることなく額のど真ん中に死ぬ気弾を撃ち込む。


「復活(リ・ボーン)!! 死ぬ気でお前を倒す!!」


パンツ一丁という格好になった綱吉は、すぐさま雲雀に向かって走り出す。
後を追うように銃から形を戻したレオンは綱吉の手元へと飛ぶ。そして再びその形を変形させた。
緑色のレオンスリッパをきつく握りしめ、綱吉はあっけにとられている雲雀の頭上を思い切りそれで叩いた。


「このったわけがぁ!!」
「……ワォ」
「ひえっ」


未来の口から素直な感想が飛ぶ。
はたかれた雲雀はうつむいていた顔をゆっくりと上げる。そしてその瞬間、雪すらも体を強張らせるほどの強い殺気がぶわりと部屋中に広がった。


「……ぐちゃぐちゃにしていい?」


そういって振り回されたトンファー。
それが綱吉にあたる。雪は目を見開き手を伸ばす。未来は地面を蹴り、綱吉に向かって走り出す。
だけどどちらも間に合わない。殴られてしまう。彼女らのボスが。
だが、それを止めたのはたった一粒のコーヒー豆だった。


「そこまでだ」


そのコーヒー豆は的確にトンファーにぶつかり、雲雀の動きを止める。
そんな神業を成し遂げられるのは後にも先にも一人しかいないだろう。
窓際に座っているリボーンだ。

だがその赤ん坊の容姿を見て、雲雀はまったくもって気に介さない。


「……君が何者かは知らないけど、僕は今イラついてるんだ。悪いけど、横になっててくれる?」


そういって、雲雀はリボーンに向かって突進する。
今度は誰も助けを出そうとしない。
そこにいる誰もが、リボーンの実力を嫌というほど知っているからだ。

鉄と鉄がぶつかるような音。
雲雀が力いっぱい振りかぶったトンファーはリボーンが咄嗟にレオンを変形させた十手で受け止められてた。
野生並の本能を持つ雲雀にとっては、リボーンの実力を知るにはそれだけで十分だった。


「……ワォ。すばらしいね、君……」
「やっぱ強ぇな、雲雀」
「勝負してみたいな……」
「また今度な」


そういってリボーンが出したのは、獄寺のダイナマイトだった。
先ほど未来のもとまで殴り飛ばされた獄寺の胸元から、ダイナマイトが転がり出てしまっていたのだ。


「行くぞ、未来に雪」
「えっ、あっ」
「はーい」


あわてて獄寺と山本のもとへ駆け寄る二人を確認したリボーンは、それに点火する。


「チャオチャオ」


そして、すごい爆音が学校中に鳴り響いた。


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