困惑と学生生活

「……これが、購買?」


押し合いへし合い状態の購買を見て、未来は唖然とする。
開いた口が塞がらない状態の彼女を、隣にいる綱吉は苦笑交じりに見ていた。


「そっか、未来はイタリアから来たから知らないよね」
「……いや……学生生活自体が初めてだから……」
「え、そうなの!?」


驚く綱吉に、未来はこくりと頷く。
こともなげにそういう未来に、今度は綱吉が唖然となる番だった。


「マフィア界でそういう子供は少なくない。過去有り訳ありで、幼い頃から犯罪に足どころか全身を突っ込んでる子は結構多い」
「そ、そういうもんなの……?」


世界の裏側を覗き見てしまったかのような話に、綱吉は青ざめる。
だがそんな綱吉も、そのマフィアのボス候補なのだ。
他人事ではないのだろう。


「から、学校に通うのはこれが初めて。一応ボンゴレで教育を受けてきたけど……」


一気に未来は顔を曇らせる。
眉根を寄せ、まるで苦虫をかみつぶしたような嫌そうな顔をしてみせる。
それほどの嫌悪感を抱く相手とは


「……ガナッシュ、ヌガー、シュニッテン、ブッシュ、ビスコンティ、ブラウ、ガナッシュ……うわぁああ」


頭を抱え唸り始める未来に、綱吉は怯えを感じる。
だがそんな未来の頭を獄寺は小突く。
女だからと言って遠慮する気はないらしい。


「テメェ! 10代目が怯えてんだろが!」
「煩い! アンタなんかに僕の苦しみが分かるか! あのスパルタの……スパルタの!」


どうやらそれほど恐怖を植え付けられたようだ。
それに苦笑を浮かべながら、綱吉は答える。


「と、とにかく……未来、昼飯食べようよ……」
「あ、そうだったね……取り乱してゴメン」


我に返った様子の未来は、しばし息をついてから落ち着く。
そして購買に歩み寄り、それぞれの品を見つめてみる。
だが初めての日本生活に、商品の名前が少しも理解できない。


「……綱吉、この……焼きおにぎりっていうのはいったい……?」
「あ、それはね……えっと、おにぎりを焼いたもので……」
「……?」


綱吉のそのままな説明に、未来はさらに混乱の渦に飲み込まれる。
しゃがみ込み、包装されたそのパッケージを指でつついてみたり、つまんでからふにふにと押してみたりする様子は何ともおかしなものだった。


「とにかく買って食えぁいいじゃねーか」
「……それもそうだね」


呆れた獄寺の言葉に、未来はすっと立ち上がり、焼きおにぎりを片手に綱吉たちのもとへ戻る。
それを見た綱吉は、少しだけ驚いたように目を見開く。


「え、それだけでいいの?」
「……他の物、よくわからないし」
「パンでも食べれば?」
「……パン?」


今度はパン売り場を、先ほどのように凝視する未来。
それはどこから見ても変人で、周りからの注目を集めていた。


「あ、あぁあ俺からのおすすめはメロンパンかな!」
「…………メロン、パン?」


そういって綱吉が差し出してくれた袋の中に入ったパンを見つめる。
丸くて、網目模様が入っているがどう見てもこれはメロンじゃない。
いろんな角度から見てみるが、どう見てもこれはメロンじゃない。


「……刻んだメロンが入ってるのか!」
「君は激しく誤解をしている!」


綱吉にツッコまれるが、それでも未来は何のことかさっぱり理解できないらしい。
首を傾げてメロンパンを眺めている。


「あ、あと飲み物はいる……?」
「うん。牛乳」
「牛乳!?」


***


「……美味、なり」


そう呟きメロンパンに続けてかぶりつくのはもちろん未来だ。
最初は半信半疑の顔だったが、やがて恍惚な表情に変わり、人が変わったようにパンを貪りだす。
それほど気に入ったのだろう。


「……気に入ってくれたのならよかった」
「綱吉、感謝する!」


あっという間に全部食い終えてしまい、残念そうに手元を見る。
だがすぐに、次の焼きおにぎりに取り掛かる。

そんな様子を見て、綱吉は笑うしかなかった。

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