もしこいつらの血の気が多すぎていたら

「じゃあ、いっちょ立派に9代目のとこに突撃して文句言ってやりますか!」


ぐっと拳を握る未来に、二人があっけとなる。


「えっ、難しいんでしょ、説得するの!?」
「当たって砕けろ! 真意がわからないならどうしようもない、ちゃんと説明しろ! って文句言うしかないっしょ」
「……ふっ」


リボーンが笑って帽子をさらに被る。どうやら異議はないらしい。
それでも雪と綱吉は困惑していた。


「え、は、反対されないの!?」
「あー……恭弥はするかも。でも後は大丈夫じゃん? 隼人はツンデレだし、武はもう言うまでもないか、ランボはと了平はついてくるだろうし。恭弥は、端っこに居てくれればいいから、とか言ったらついてくるでしょ?」
「よし、雲雀は未来を潰せるっつーことで連れてくか」
「あれ? 僕犠牲系? そしてもう決定系?」


ぼっこぼこにされてまう、と意味が分からない不完全な大阪弁を模す未来。
関西人に聞かれたら怒られてしまうのでやめてほしい、と綱吉は心の底で思った。


***


「うわぁ……飛行機……」


まるで子供みたいに専用ジェットの窓から外を眺める綱吉と、その他一同。
綱吉の隣には当然のように獄寺が座り、そしてそのすぐ後ろに山本が座る。
綱吉たちの席に対し、通路をはさんで向こう側に未来と雪が座り、ガールズトークに花を咲かせていた。
もっとも、未来がいる時点でそれはガールズトークからほど遠いのだが。

ランボは綱吉の前で、了平はランボのさらに前、リボーンは未来たちの前の席にしっかりと座っていた。
そしてその遥か後ろ、一番後部座席に、まるで王のように雲雀が鎮座していた。

まるでカオスしか言えないこの空間に、雪は戸惑いを隠しきれない。
だがその他の皆は既に慣れきっていて、まるでこの空間が普通かのように会話を続けていた。


「ねぇ」


唐突に不機嫌そうな声が、ざわざわと騒がしかった飛行機内を走り抜ける。
その声一つで誰もが黙るのだから、綱吉は思わず苦笑してしまった。


「いつになったら行くの? 僕は暇じゃないんだけど」
「あぁ? 今行こうが後々行こうが、帰る時間は一緒なんだよ。大人しくそこで待ってろ」


売り言葉に買い言葉。
躊躇いもなく、獄寺は振り返りもせずに吐き捨てた。
それが癪に障ったのであろう、雲雀はゆらりと立ち上がる。


「誰に指図してるの? 駄犬は黙ってなよ」
「あぁ!?」
「え、えっと、」


綱吉が何とかなだめるも、一向に落ち着く様子のない獄寺。
下手したら機内での戦争が勃発しそうな張りつめた空気の中、一人の声がそれを遮った。

身を乗り出すように背もたれに身を委ねながら二人を見つめる雪は、少しおずおずとしていた。


「スケジュールもありますし、飛行機を急かして衝突事故なんて起きたら嫌でしょう? スケジュールによれば、もうすぐで離陸するそうですし……え、えっと、巻き込んだ張本人が言うのもなんですけど……」


どんどん声が小さくなっていき、後半となってはもう横に座っている未来すら耳を澄まさねばいけない音量の彼女の言葉を聞き、雲雀はつまらなそうに椅子に座り直した。
それと同時に、優雅に足を組むのも忘れない。


「ふん。小動物の戯言なんて聞く気も起きないよ」


そういいつつも戦意を削がれたのか、雲雀はしっかりとシートベルトをして目を閉じた。
ヒバードがぽすり、と彼の柔らかそうな髪の毛に収まる。
どうやら、眠りにつくようだ。

その途端、機内が拍手で包まれた。
主に未来、綱吉、山本あたりからの拍手だが。


「ちょ、雪すっごい。あの何様俺様風紀委員長様雲雀恭弥様を黙らせるとか、マジ有り得ない。雪あんたどういう魔法使ったの」
「ひ、雲雀さんに立ち向かえる時点で…」
「大抵俺らは武器抜かねーと、雲雀を落ち着かせること出来ねーもんな」


山本が何やら普段の彼とは想像できなさそうな言葉を吐いたが、重要なのはそれじゃない。
問題なのは、雪が雲雀の戦意を削ぐことができたということだ。
そしてそれは、今までのファミリーの中で誰も出来なかったことで。

誰もが内心で、もし雪がファミリーの一員になれば楽なのに、と思ってしまっていた。

離陸予定時刻は午後5時20分。
かちり、と音を立てて未来の時計は正確にその時刻を刻んだ。
ぽん、と軽快な音がして、飛行機では見慣れたシートベルト着用のサインが光る。


≪今より離陸しますので、しっかりとシートベルトを着用し、窓のブラインダーは開け、テーブルを収納し、座席のリクライニングを戻してください。 また、電子機器は電源を切っているか、または機内モードに入っていることをしっかり確認してください≫


専用ジェットのせいか、幾分省略されたメッセージに各々が従う。
かくいう雪や未来も、携帯の電源を切ったり、機内モードに設定したりしていた。

暫くして、衝動が機内全体に響き渡る。飛ぶためのエンジンをかけているのだろう。
1分も待てば、飛行機は乗客たちを引力で引っ張りつつも走り出した。
滑走路を轟音を立てて走り終え、飛行機はぐいっと引っ張られるように上へと飛んだ。


「うわぁっ……」


普段はあまり飛行機に乗らないのか、綱吉はまるで子供の用に窓を凝視した。
それを見て、獄寺は再び綱吉との会話へと戻る。
それに山本が参加すれば、まるで親の仇というように睨んだ。
高所恐怖症の未来はただ呪文のように「大丈夫死なない」を繰り返した。

そんなみんなを見て、雪は笑う。
今まで男ばっかりのヴァリアーにいたのだ。
ルッスーリアは性別不明とはいえ、同年代で話し合える友達などいなかったのだろう。
心底楽しそうに、雪は話しながら笑っていた。


「笑うとかわいー」


急に口を開いた未来。
先ほどまでの呪文は消え去ったのか、小さく笑みを浮かべて楽しそうな雪を見つめていた。


「隼人もそう思うよねー」


通路を挟んで向こう側に座っていた獄寺は勿論、綱吉夢中で雪の笑みなんて見ていなくて。
それでも急に大好きな10代目との会話を中断されて、不機嫌そうに女子の方を向いた。


「誰でもテメーより可愛いだろうな」
「ふざけんな死ね隼人」


***


機内には今や微かな囁き声。未来の時計は、午後10時を指していた。

イタリアに着くまでの所要時間はおよそ13時間。
着くまでにまだまだかかるな、と未来は小さく溜息をついた。


「未来……?」


未来の作った物音で起きてしまったのか、寝ていた雪が目を覚ました。
機内で起きているのは、未来と今しがた起きた雪、そしてリボーンと目を瞑って音楽を聴いている獄寺だけだった。


「ごめん、起こした?」
「ん、大丈夫……何をしてるの?」


さも眠そうに目を擦りながら暗闇の中、未来のパソコンのスクリーンに目を凝らす。
そこには、ワードに敷き詰められたイタリア語がタイプされていた。


「9代目への報告書。定期的に送れって言われてたけど、忘れてたから今度まとめて渡そうと思ってて」


ふーん、と呟きながら雪は報告書を読み上げる。
そこには未来らしい文法ミスがあったが、読めないわけではないのでスルーした。


「ねぇ未来……9代目ってどんな人?」
「会ったことないんだっけ」


オートセーブに任せて、未来はパタンとパソコンを閉じた。
そして真剣な瞳で雪に向き直る。いつもふざけた様子で、人をイラつかせることにしか才能がない未来も、これでもすこしイタい通り名を持つ立派なヒットマンだったのだ。

それを今更思い知らされた気がして、雪は少しだけ戸惑いを見せた。
それでも未来がいつもの人懐こい笑みを浮かべれば安堵したように喋り出す。


「うちの皆が酷い9代目嫌いで……って、未来も知ってるでしょ?」
「そういえばそうだっけ。僕は二週間近くしかいなかったじゃん。あまり詳しくないよ」


いつの間にか獄寺はイヤホンを外し聞き耳をたてていた。


「そっか。ヴァリアーはとにかく9代目のことが嫌いだったから、一度も顔を合わせた事が無いの。 ベルさえ顔を覚えてるかどうか……」
「仕事の通達はそういえばメールだったりメッセンジャーがいたりしたっけ」
「そうそう」


その雪の返答を聞いて、未来は少し考えるように上を見上げた。
そして小さく唸ってから、口を開いた。


「史上最恐のマフィアボス」
「最強?」
「そっちじゃなくて…、強いじゃなくて恐い方」
「は? あのお方が恐いだ?」


ついにツッコまずにはいられなかったのだろう、獄寺が会話に参戦する。
その獄寺の言葉に、だけど未来はゆるりと首を横に振った。


「あのお方は歴代きっての穏健派だってお前も」
「マフィアにとっての穏健って何?」


獄寺の言葉に被せるように、未来は尋ねた。
じっと見つめてくる未来に、獄寺は戸惑い答えを出すことができなかった。


「……争わないこと?」
「そう」


戸惑いつつ答えた雪に、未来はすぐに同意した。
雪の方に向き直り、さらに問い詰める。


「争いしか生まないマフィアなのに穏健派……その肩書きはどうやって得られると思う?」
「……ぁ」


数日前に交わした会話。彼女はやっぱり理解できずにいたのだ、未来の9代目に抱く感情を。
だがようやく理解したように、雪が小さく声を漏らした。
そして小さく「そっか…」と少し怯えを含んだ眼差しを落とした。


「……争う前に……争いの根源を潰す……」
「流石雪」
「……っ!」


小さく微笑んだ未来に、息を飲む獄寺。
そのまま未来は続けた。


「前も言ったけど、穏健派なんて肩書きは恐怖政治を示すだけだよ。私に反対するものは全て潰せ、そうやって争わなくていい世界を作ろうじゃないか。見せしめにいくつか潰したら、自然と反対する奴らも減るだろう。そうやって築き上げた称号。……正直僕はあの人が、……怖い」


はじめて未来が見せた、乾いた、だけど恐怖を映すその表情に、雪たちは固唾を飲む。
いつの間にか此方に来ていたリボーンは、今度は何も茶々を入れず、真剣な眼差しで未来の前の席の背もたれに座っていた。


「……ってことは下手したら、」
「うん。戦わなくちゃいけないかもしれない」
「っんなの……」
「そうなったら、僕たちに勝ち目はないだろうね」


まるで二人の言わんとしていることを理解しているかのように未来は続けて二人の言葉を遮る。
予想だにしない言葉に、雪は不安そうに自分の膝を見つめた。


「今の戦力は……ランボは戦力外。そうでなくとも力の差が歴然なのに、それだけで9対8。今までずっとヴァリアーで実力を磨いてきた雪を除けば、僕らはまだ発展途上。 そして向こうはプロ」
「おれも手助けはできねーからな」


リボーンが挟んだ口に、未来はすでに心得ていると頷いた。
いくらリボーンが綱吉の家庭教師といえど、それ自体9代目からの命令のようなものだ。
ボンゴレ現ボスに反抗することは敵わない。それが生徒を助けるだけであったとしてもだ。

ぎゅっと獄寺は膝の上で拳をきつく握った。
眉間にはいつも以上に深い皺が刻まれていた。


「……知ってた?」
「……?」
「未来はこの案を出した時から…そうなるかもしれないってこと、知ってた……?」
「僕だけじゃなくてリボーンも想定してたと思うよ」


その未来の言葉にリボーンは何も言わずだけどただ瞳を閉じた。
それは肯定を意味していた。


「じゃあ何で……っ」


唐突な雪の悲痛な声に、周りの視線は雪に集まった。
眉根を寄せ、今にも泣きそうな表情で雪は言った。


「なんで止めてくれなかったの……!? 危ないってこと、知ってたのに!」


荒げた雪の声に、綱吉は「ん…」と声を漏らしながら少し身じろいだ。
その様子に少し慌て、獄寺は「静かにしろ!」と小声で諭す。


「それ以外に雪をヴァリアーに戻す方法が見当たらなかったからだよ」
「私のためにわざわざって? どうしてそういうことするの? 後味悪いのは私だって知ってるでしょう!?」


今度こそその声は山本を起こしてしまい、彼は驚いた表情で「どうした?」と尋ねた。
未来は「大丈夫」と山本に一言告げてから、雪の方を振り返る。


「僕たちがファミリーだからだよ」
「……え?」


未来の言葉に雪は動きを止めた。
そして反射的に立ち上がってしまっていた体は、糸が切れた人形のようにぼすんと椅子に落ちた。


「たとえ一時的でも、雪がヴァリアー以外受け付けなかったとしても、今この瞬間僕たちはファミリーだ。そして家族を助けない不届き者はこのファミリーに一人も、いない」


その言葉とともに、ぼろりと雪の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
そしてその両手が顔を隠すように覆うと同時に、未来がその体をそっと抱きしめた。


「っ……ごめん、なさい……! 我儘だって、こと、知ってる……分かってっ、るの……っく、っでも……みんなのこと大好きっだから……」
「うん、わかるよ。そばにいたかったんだよね。大切な家族だから」
「でっ……でも、皆をっ、危険な目に、合わせたくなっ……」
「大丈夫。大丈夫だから」


いつになく優しい声の未来が、雪の背中をゆっくりと撫でる。
嗚咽混じりの途切れ途切れの雪の声は、次第に小さくなっていく。


「っふ……うぅーー……」


その泣き声は、ただ静かな機内に響いた。


***

「うおー、着いたぁー!」


シートベルトを外すと同時に、未来が体いっぱい背伸びをする。
ゴキバキ、といろんなところから大変な音が聞こえる。


「長時間座ってたからお尻が痛いや……」
「んなっ……10代目! マッサージします!」
「いや、いいよ!」
「男が男の尻を揉むのは流石に別の種類のアレだからやめろ隼人」


流石にふざけれないのか、軽く青ざめた顔で苦笑する未来。
他の人たちはもう皆飛行機から降り始めていた。


「ランボさん飛行機怖くないんだもんね!」
「まだちっさいのに怖くないんだ! すごいね


子供の扱いに慣れているらしい雪は、ランボを胸に抱きながら笑みを向ける。ランボは嬉しそうに「にしし」と笑い返す。
それを、未来はうんざりとした顔で見つめる。


「雪、よくそいつ抱けるね……僕、ただでさえ子供嫌いだけど、うるさい子供は特に嫌い」
「えー? かわいいよ? それに私子供好きだし」
「子供が大好きな上扱いに長けているというハイスペック、狙うなら今! 結婚すればなんと嫁としての家事だけじゃなく、ボディーガードまで!」
「何それ


冗談を交わしながらもその足は空港ではなく、むしろ空港の反対側へと向かっていた。
それについて綱吉は不安そうにチラチラと空港を振り返る。


「……あのさ、乗る時も思ったけどさ、飛行機に乗るにはいろいろ手続きが必要なんじゃなかったっけ……。今気づいたけど俺パスポートも持ってないし……」
「大丈夫大丈夫。自家用ジェットみたいな取り扱いだし、僕らがこの飛行機に乗ってることは誰も知らないんだよ」
「……つまり?」
「人間密輸っ」
「麻薬みたいな扱いー!?」
「ボンゴレクオリティーだぞっ」


未来とリボーンの、語尾に音符やハートがつきそうなトーンに、綱吉はツッコミが間に合わない。
頭を抱え青ざめたまま「父さん母さんやばいよ犯罪に手を染めちゃったよ……」とぶつぶつ呟いている。


「マフィア自体犯罪の塊なのに綱吉は何いってんだろうね」
「本当に自覚が足りねーな」


肩を竦め呆れたように「やれやれ」というポーズをするリボーンと未来の二人。
思ったよりこの二人息が合うな、と雪は密かに思っていた。

そんな雪の肩を軽く叩いたのは獄寺だ。
呆れた様子で未来を見つめながら、雪に「行くぞ」と声をかける。


「ねぇ獄寺 隼人!」
「……」
「え、ちょ獄寺 隼人今無視した?」
「いや……お前さ」
「ぅん?」
「なんでフルネームなんだよ。普通に獄寺にしろ、なんか戸惑うから」
「……隼人?」
「……」


ぎくりと肩を震わせる雪。
そしてゆっくりと振り返り、恨めしそうな顔で雪を見つめた。


「もしかして名前呼ぶ特権は未来だけなんだ?」
「違ぇよ! 未来連想して寒気しただけだ!」
「じゃあ獄寺で勘弁してやろー」
「話聞け!」


くすくすと笑う雪は、そのまま獄寺を追い越し先を歩いた。
その先には山本が一人、爽やかに歩いていたのだがすぐに雪に気づき笑みを浮かべた。


「よっ、北国!」
「山本 武……」
「山本でいいぜ!なぁなぁ!」


分け隔てなく仲良くしてくれる彼に、雪は出会った当初から好印象を抱いていた。
ん?と笑みを浮かべながら雪は山本のほうを向き笑みを浮かべた。


「結局イタリア行って9代目と戦闘するとか無謀すぎるって作者がこの話ボツにしたし、このままイタリア観光しようぜ!」
「あはは、山本ってめっちゃメタ発言するよね! 皆いこー!」



そのまま並盛ご一行は、楽しい一週間をイタリアで過ごしましたとさ。

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